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December 04, 2014

Kyotorogy 2014: 六条河原院

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 2014年10月16日。広小路をあとにして、府立医大前からバスに乗り、河原町五条で降りるつもりが、ボンヤリ考えごとをしていたため、一つ先の河原町正面で下車。

 目的地は初めてだが、大体の見当はついていたから、高瀬川沿いの道に出て北上する。

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 河原町五条で下車していたらこの道を通らなかっただろうから、ボンヤリしていたのがかえって幸いしたようだ。歩きながら、つくづく京都は散歩するためにあるような町だと思う。

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 この巨木には驚いた。うっかり切り倒そうものならどんな災難がふりかかるかしれぬ、といった堂々たる貫禄をそなえている。ご神木というのはこういう木をいうのであろう。

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 上の写真左手にちらりと見える橋は、高瀬川に架かる榎橋。偉大なる榎の木にちなんで名づけられたのだろう。

 この榎こそ六条河原院跡の目印なのであった。

 能の『融』によれば、海辺でもないのに汐を汲む桶を担った爺さんが登場し、

 -さてここをばいづくとしろしめされて候ふぞ。

 すると東国方より出でたる物好きな男はこう答える約束になっている。

 -この所をば六条河原の院とこそ承りて候。

 その怪しい汐汲みの爺さんこそ、たれあろう、河原院の主左大臣源融(みなもとのとほる)その人の幽霊というしかけになっている。

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 六条河原に大邸宅を構えた融のおとどは、話に聞いてあこがれた奥州塩竃の景色を模した庭園をこしらえた……とまあ、そこまではわかるのだが、

 難波津敷津高津この三つの浦より潮を汲ませ、ここにて塩を焼かせられ候ふにより、汐汲の数も、浦にて汐を汲む者千人、運び行き違ふ者千人、ここにて山へ分け入り薪を取り汐を垂れて焼く者千人……

 京都盆地で製塩をするために人足都合三千人とは、酔狂も度が過ぎている。これを「風流を極めた生活」というのは、ちと的はずれではあるまいか。こんな途方もないことをするには必ず訳があったはずだ。

 ぼくは日本史はまるでダメだから自信はないけれど、案内板の説明文に「摂政藤原基経の台頭により隠棲」とあるのがヒントになるのではないかと思う。基経は策士らしいから、融はよほど鬱屈した心境にあったのかもしれない。やけっぱち、基経へのあてつけ、あるいは佯狂の疑いさえあると思う。そうでなければ、だれがそんなアホな真似をするであろうか。

 しかしこの手の阿呆はけっして嫌いではないから(笑)、ぼくはわざわざここまでやって来たのである。いやしくも大臣を名乗るなら、ケチな帳簿の小細工などはやめて、このくらい堂々たる公費の無駄づかいをしてほしいものだ。

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 これが案内板にある榎大明神らしい。建物に張りついた鳥居をくぐって入ったのだが、あまりにも暗いから、さすがにストロボを発光させた。まことに奇妙な構造の神社で、こういうのは初めて見た。

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 榎大明神の裏手へ回ってみる。

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 広大な敷地を誇ったという河原院は跡形もなく、いまに面影を伝えるのは榎の木一本だけ、ぼくがこの世を去れば、残るのはたぶんホワイトホースの空壜一本だけ、左大臣も貧乏人も死んでしまえば一緒である。

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 しみじみと人生のはかなさを感じつつ、五条大橋を渡って、対岸から河原院跡を見る。

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 最後にふたたび五条大橋西詰から河原院跡を見て、変人の左大臣に別れを告げる。真っ昼間のせいか、汐汲みの爺さんはとうとう現れなかった。

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Comments

>大臣を名乗るなら・・・・堂々たる公費の無駄づかいをしてほしいものだ。

まあ、大臣じゃあなくても・・・世の中余りにも無駄を嫌いすぎてつまらなくなっているような気がして・・・もうちょっと、「ぱあっ」てな具合にはいかないものかと・・・

私にはできなくとも、せめてお金がある人にはね・・・

Posted by: 三友亭主人 | December 05, 2014 at 05:46

>三友亭さん

 資金さえあれば派手に使ってみせますから、ぼくを左大臣にしてください(笑)。

 養老の滝で酒を汲む者千人、それを運ぶ者千人、薪を取って燗をつける者千人、なんてね。

Posted by: 薄氷堂 | December 06, 2014 at 09:15

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