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September 09, 2014

Daily Oregraph: 食いつけないご馳走

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 -なんだい、これは?

 -見りゃわかるだろ、ケーキだよ。

 -だれが食うんだ?

 -おれが食うに決まってるさ。

 -ふん、君くらいケーキの似合わない男もめずらしいけどな。

 というわけで、『アンナ・カレーニナ』を読み終えた記念にケーキを食べたのだが、

 -へえ、で、感想は?

 -なにしろ大長編だからね、腹が一杯になってしまった。胃袋に血が集中して、考えがまとまらないよ。おまけに最後は大演説で終わるしさ。

 トルストイは若い頃は酒色にふけり、傲慢で鼻持ちならぬ男だったらしい。無類の女好きで、モームなどは作品を高く評価しつつも、彼を「好色漢」とまでいっている。実際農奴の細君に手を出して私生児をもうけ、夫人との間には子供が13人もいたというから、精力絶倫であったことはたしかである。

 いったん失った信仰を取り戻して独自の思想に至り、非戦論などを唱えてからは一種の聖者として熱心な読者に崇拝されたらしい。わが白樺派などもその口であろう。しかし仲よきことは美しき哉とはいかず、あまりにも風変わりな理想に取りつかれた挙句、細君とは不仲になるし、やることなすことうまくいかず、晩年はずいぶん苦労したという。

 作品はさすがに白樺派の寝ぼけた小説などとはスケールがちがう。多数の登場人物の性格をみごとに書き分け、千頁を越す大長編を一気に読ませる手際はとても凡手の及ぶところではない。聖者あるいは道徳家かどうかは別にしても、大作家であることはまちがいないと思う。

 -でもなあ、ふだんお茶漬けサラサラですませている人種にしてみれば、いきなり食いつけないご馳走を目の前にしてとまどう気分になることもたしかだね。

 -そりゃあ、消化不良だな。第一君には精力がなさすぎる。

 -うん、おれはケーキをひとつ食うのもやっとだからなあ。

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Comments

こんにちは!
「アンナ・カレーニナ」読了ですね。
乙山も数年前「アンナ・カレーニナ」を読了し、
ついでに「罪と罰」も読みました。

アンナの側で社交界を、リョーヴィンの側で素朴な農民を、
それぞれ描いているからこその大作なのでしょうね。
アンナがヴロンスキーに惹かれていく過程が、
少しわかりにくかった、というか、なんで?
と思ったのですが、もう一度読んでみようと思います。

ケーキ、おいしそうですね!

Posted by: 只野乙山 | September 11, 2014 at 11:54

>只野乙山さん

 全体としては変わりゆくロシア社会のありさまを浮き彫りにしたスケールの大きい作品だと感じました。

 ヴロンスキーとの一目惚れもそうですが、最後に追いつめられていくのはわかるにしても、はてな、アンナとはこういう女だったのかなと思わせるところはたしかにありますね。

 しかし恋は思案の外とやら(笑)、世の中こういうこともあるのだろうと考えておくことにしました。

Posted by: 薄氷堂 | September 11, 2014 at 21:04

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