Daily Oregraph: 三十年以上かけて小説を読む話
数日かけて The Moon and Sixpence を読み終わった。
この小説は、三十年以上も昔に、78頁まで読んで放り出してしまったのだが、けっしてつまらなかったからではない。勉強のために読むなら話は別だけれど、そうでなければ、小説というのは勢いに乗って一気に読み切るべきものである。たぶん当時仕事かなにかの都合で中断を余儀なくされ、いつの間にか読みつづける気力を失ったのだろうと思う。
あまりにも有名な作品だから、いまさら高校生みたいな感想文を書くつもりはないけれど、ちょっとだけ。ぼくがもっとも感心したのは、重要な脇役である Dirk Stroeve (これ、ストレーヴと読めばいいのかな?)だ。主人公を食ってしまうほどうまく書けていると思う。
描写が冴えているから、登場人物も情景もすべて輪郭がくっきりと浮かんでくるし、プロ中のプロの小説家のすごみを感じた。ちょっとうますぎるんじゃないかと思うほどである。
ついでに嫌われるのを覚悟の上でいうと、人間観察の達人であるモームの小説は、お手軽な自己啓発本や人生修養書のたぐいに満足している人々にとって、よい解毒剤になるのではないだろうか。
……とかなんとかえらそうなことを書いているうちに、またウイスキーが一壜空になってしまった。
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Comments
私はまだ埴谷雄高が・・・「死霊」が・・・
20数年前、1ページ目の5行目ぐらいでとまったままです。
人生の経験が豊かになれば・・・少しぐらいは賢くなって読めるようになるんじゃないかと期待して本棚に置きっぱなしなんですが、思うように賢くならなくって・・・
Posted by: 三友亭主人 | May 29, 2014 07:57
>三友亭さん
埴谷雄高のような孤高の作家は、えらいのかもしれませんが、読み手を選びすぎます。ぼくなんかもちろん資格ゼロ(笑)。
モームだったら、埴谷さんのような人をモデルにして売れる小説を書き上げるかもしれませんが、彼をただの器用な作家だと思ったらおおまちがいですね。並外れた教養と公平率直に人を評価する眼力をそなえた大作家だと思いますよ。
Posted by: 薄氷堂 | May 29, 2014 21:36
こんにちは!
モームの『月と六ペンス』、読んだことがあります。
たしかストリックランドとか言う画家が、
ポール・ゴーギャンさながら南洋の島へ行く話でしょうか。
モームの小説、筋がしっかりしているから好きです。
何のことやらわからぬ小説も好きですが、
その点、モームは筋がはっきりしているからいい。
読みかけて止まった小説ってありますよね。
Posted by: 只野乙山 | June 01, 2014 17:19
>只野乙山さん
モームは劇作家ですから、観客にあくびをさせるような芝居を書くわけにはいかないという精神が小説を書く際にも徹底しているのかもしれませんね。
渋いおじさんですよ。ぼくは好きです。
Posted by: 薄氷堂 | June 01, 2014 22:34