Random Haiku House 月並おさらい編
本日も写真は撮っていない。お勉強を再開したからである。
そこで2000年10月1日にいたずらにシャッターを切った一枚。ああ、そういえばこんなカメラを使っていたんだっけ。売らずに手元に置いてあるけど、もう二度と使うことはないだろう……などと思い出にひたっている場合ではないか。
今日はいわゆる月並調とはなにか、ここでおさらいしておこう。
天保以後の句は概ね卑俗陳腐にして見るに堪へず。称して月並調といふ。しかれどもこの種の句も多少はこれを見るを要す。例へば俳諧の堂に入りたる人往々にして月並調の句を賞し、あるいは自らものにすることあり。けだしこの人月並調を見る事多からざるを以て、その中の一体やや正調に近き者を取てかく評するなり。焉んぞ知らんこの種の句は月並家者流において陳腐を極めたるものなるを。恥を掻かざらんと欲する者は月並調も少しは見るべし。(正岡子規『俳諧大要』)
されば月並調を見るべし。
まずはあたりまえすぎてちっともおもしろくない例を挙げよう。
むなしさや読まぬ書を積む夜ふけかな
正座して辞書真新し春ごたつ
ふるさとや町にひとつの女学校
いかにも卑俗陳腐にして見るにたえないが(笑)、一応理屈だけは通っている。
次はなんだかものたりないなあという例。
かなしさや使はぬ小屋の風の声
くたびれてものうき雲に運河かな
内科医師芋焼く煙山の昼
暑き日のひとりふたりと街の角
第一句と第二句はどうもだれかの真似をし損なったようにも思われる。第三句はいかにも適当に文句を並べたみたいだし、最後の句はただ「暇人だなあ」という印象しか与えない。
今度は前回も登場した歌謡曲調を並べてみよう。
古着商流れて来たる山の駅
子を負うて酒呑みに行く霜夜かな
渡り鳥われも帰らん最上川
木枯しにうつくしき人別れゆく
別るるや駅舎なき駅花の雨
第一句は上五を「露天商」に変えればさながらフーテンの寅さんである。第二句は女房に逃げられたダメおやじ。第三句は小林旭を連想させる。この中では最後の句がまあいいかと思うけれど、やはりいかにも作ったという印象はまぬがれないだろう。
しかし五七五の口調には麻薬的効果がある。卑俗でも陳腐でも、なんとなく納得してしまうから恐ろしい。ただバカにして鼻で笑うだけというのもどうかと思うのである。
国滅び少女うつくし雨の中
冬の星鐘打ちならし電車過ぐ
踊子やナイフ冷たし街の角
髪をすく戦火は遠し京の雨
朝霧やうごく時きて嵐山
雪だるま夜のむかうになほ残る
風やんでこの世美し風車
大阪やいづこより来る寒さかな
つまり一口に月並調といっても、中には「ひょっとしたらいいかも」とつい思ってしまう句もあるということだ。しかしたとえば「朝霧」の句などはちょっとよさそうだけれど、なんとなく嫌味が感じられる。こんな句を作って自慢する人がいそうな気もする。結局下手でも素直なほうがまだましということか。
実例を挙げてみよう。ダメなんだけど捨てられないものもあるのだ。
大学生よろめき出づる残暑かな
これは昔の自分の姿を見ているようでハッとした一句。あまりにもリアルだから、削除しようとしてできなかった。こうなるともう出来のよしあしの問題ではない(笑)。
次回は最終回。ばかばかしさに味があるという、パソコン俳句ならではの作品をまとめてみようと思う。
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Comments
こんにちは!
一枚目の写真、ニコンのFM2ではありませんか!
たしかこれ、マニュアル操作のカメラだったような……
ニコンF4とかF5では大げさすぎるという人が、
好んで使っていたのではないかと思います。
2000年頃と言えば、まだ銀塩カメラを使っていた人も、
わりとたくさんいたんじゃないでしょうか。
乙山も2009年にウェブログを立ち上げるとき、
初めてデジタル写真機を買いました。
あれから約5年、同じものを使い続けています。
デジタルカメラがなかったら、
撮影→現像→プリント→スキャン→レタッチ、と
恐ろしく長い時間がかかりますものね。
Posted by: 只野乙山 | January 04, 2014 09:59
>只野乙山さん
New FM2 はマニュアルです。今も手元にあり、空シャッターはよくないらしいので、メンテナンスのため、フィルムを入れてときどきシャッターを切っています。
ぼくは目がよくないのでマニュアルはもうダメですね。ピントを合わせられないし、なぜか手は震えるし……(笑)。
このしょうもない写真は、ポジフィルムをスキャンしたものですが、おっしゃるとおり面倒くさくて二度とやる気になれません。
Posted by: 薄氷堂 | January 04, 2014 21:27