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December 14, 2013

Daily Oregraph: 「彼岸花」を観て

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 GyaO! で本日限りという小津安二郎の「彼岸花」を観た。

 この映画は昭和33年の作品だが、両親に連れられて南大通りの南映で観た覚えがある。南映は封切館ではなかったから、昭和34~35年のことだったかもしれない。

 そもそも小津安二郎の映画はおもしろおかしいというものではないし、もちろんこどもに意味が理解できるはずもない。だからストーリーもなにも記憶しているはずはないし、ただただ退屈でしょうがなく、画面をろくに見もしなかったはずだ。

 さすがにこの年になればしみじみ感じるよさはあったが、ここで柄にもなく映画論を一席ぶつつもりはまったくない。ほんの気まぐれに、この作品中三度登場する同じ場所に注目してみただけである。

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 まずはこのシーンをごらんいただきたい。映画の最初のほうに登場するほんの数秒のカットだが、画面には寸分の隙もない。なんの変哲もないようでいて、隅々にまで神経が行き届き、恐ろしいほどぴたりと決まっている。

 この家にはまだなんの波風も立っていないことをうかがわせる画面ともいえる。

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 こちらは映画の中ほど。アングルはほんのわずか変化しているが、基本的には最初のカットと変わらない。しかし少し前にだれかが茶を飲んだことがわかる。

 棚に落ちる影もいっそう暗くなり、家庭内に微妙な変化があらわれたことを巧みに表現しているようだ。

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 これは頑固な父親が娘の結婚を不承不承認めた直後のカットである。棚に置かれた壺からは影が消えている。右手の障子は開けられ、部屋の隅に置かれた小道具からはどことなくうきうきとしたリズムが感じられる。

 ああ、すべて計算されつくしている……そう思った。なおこの画面の切り取り方はほかの場面にも共通するもので、小津監督の好みなのかもしれない。

 舌を巻くほどの職人芸を感じたけれど、こう万事みごとに型が決まりすぎていては、小津以後それをぶち壊したいという衝動にかられた若い監督たちが登場したのもまた必然であろうという気がしてならない。

 しかし映画にかぎらず、定型の持つ力には侮りがたいものがあるなあ……そんなことを考えながら今夜も一杯やっているところだ。

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Comments

小津安二郎という人の映画はあまり見たことがないのですが・・・年齢的にも仕方がないですよね・・・ときどきテレビでちらっと見かけれことがしばしば。
ですから、その場その場の場面しか見ていない・・・

だからこそ逆に感じるのですが、その一つの場面が実に美しく感じるんです。細切れのシーンでも充分に耐えうる様に一つ一つの場面にも力を抜かないでいるんでしょうね・・・

Posted by: 三友亭主人 | December 14, 2013 at 23:16

>三友亭さん

 小津安二郎の映画はいかにも日本的な家庭を描いているようでいて、欧米人にもよく理解でき、世界中で共感を得ているということですから、まさに普遍性があるのでしょう。

 こどもの頃とはいえ、リアルタイムで観ていたとはジジイの証拠ですけど(笑)、長い地球の歴史から見れば、三友亭さんもぼくと同年代ですよ。

 それにしても小津映画に登場するような日本人の多くは、この半世紀の間にどこへ消えてしまったのでしょうか?

Posted by: 薄氷堂 | December 15, 2013 at 12:26

こんにちは!
小津安二郎監督の映画は数えるほどしか見ていません。
定点観測のような固定した視点の長回し、
それも座った位置に合わせたような高さ。

意味があるような、ないようなセリフも特徴です。
記事にあるような、調度品の配置によって、
家庭内の出来事を語らせるというのはいかにも、という感じです。

Posted by: 只野乙山 | December 16, 2013 at 11:02

>只野乙山さん

 一杯やりながら最初の写真のシーンを見たとき、なぜかハッとしたのです。どうして本筋とは直接関係のないこんなカットを入れたのか? しかも水平・垂直はもちろんきちんと取れているし、非の打ち所のない構図です。

 あまりにも気になったので画面をコピーしておいたら、映画の中ほどでまた同じ場所が現れたわけです。ははあ、これはワケありだな、きっともう一度登場するだろうと読んだのです。

 予想どおり三度目がありました。序破急の呼吸ですね。さすがは小津安二郎、蛇足は付け加えませんでした。

Posted by: 薄氷堂 | December 16, 2013 at 22:44

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