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November 15, 2013

Daily Oregraph: アップ・アンド・ダウン

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 しょうもない写真だが、今日の釧路川河畔。午後からは雨と、まるで冴えない天気であった。

 さて前回の記事で、英国の遺産相続について触れたけれど、遺産が転がりこんで貧乏人が大富豪になるのはわかるにしても、金持ちが貧乏人に転落するなんてことがあるだろうかという疑問をお持ちの方もいらっしゃるだろう。

 そこで『嵐が丘』から拾った一例をご紹介しよう。

 この小説の人間関係は、舞台が狭い割にはわかりにくい。その原因の一つは登場人物の名前にある。

 怪人 Heathcliff (姓と名の別はなく、ただのヒースクリフ)の恋人は Catherine Earnshaw なのだが、そのCatherine はわけあって金持ちの地主である Edgar Linton と結婚する。ふたりの間に生まれた娘の名が Catherine Linton だから、これで二人Catherine になる(ご存じとは思うが、母のほうは娘を出産してすぐ病死)。

 Edgar をはじめとする Linton 家への復讐に燃える Heathcliff は、財産目当てに Edgar の妹 Isabella Linton を誘惑して結婚したが、まもなく Isabella は逃げ出して別居し息子を産む。その息子の名が Linton Heathcliff とは迷惑な(笑)。

 Heathcliff は復讐を完成させるために、息子 Linton を Edgar の娘 Catherine と結婚させて、Linton 家の財産をそっくり手に入れる。

 この結婚によって Catherine Heathcliff が存在することになったのは、運命の皮肉というよりも作者の計算によるものだろう。しかし本日のテーマは相続問題のほうである。

 以下に注釈としてぼくのまとめた文章をそっくり引用する。なおカッコ内に示したのはぼく独自のテキストのページだから念のため。

 先代の遺言状によれば、まずEdgarに息子がないときは、その死後彼の妹 Isabella が Linton 家の財産を相続することになる(p. 122および p. 190参照)。

 ところが Isabella は Edgar より先に死んだため、その相続権はどうなるかというと、Heathcliff と Isabella の間の息子 Lintonも Edgar の娘 Catherine も単独では相続できないが、ふたりが結婚すれば共同相続人になるとされていた。なお遺言状には、結婚後 Linton が先に死亡した場合の Catherine の相続権を保証する条項はないという(pp. 248-249参照)。

 そこで Heathcliff は、自分にはもともと(亡妻 Isabella から引き継いだ)相続権はあるのだが、相続に際して予想されるいざこざを避けて確実に財産をわがものにするため(p. 241およびp. 249参照)、またいずれ Catherine 個人に属する動産をも横取りしようとして(p. 324およびp. 341参照)、Edgar 存命中に Linton と Catherine とを強引に結婚させようとした(p. 249およびp. 310参照)。

 一方 Edgar 夫妻は、Heathcliff が Isabella を誘惑したときから、それが財産目当てだと気づいていたが(p. 115およびp. 117参照)、その後 Edgar は相続について特に手を打ってはいない。しかし死を目前にした Edgar は、Linton と Catherine の結婚が強行されると、Heathcliff に対抗して娘の動産を(管財人に託して)確保すべく、はじめて遺言状に変更を加えようとしたが果たせなかった(p. 326参照)。


 頭がこんがらがってきたかもしれないけれど、要するに Edgar の娘 Catherine は、父の死に引きつづき病弱の夫 Linton がこの世を去った結果、不動産も動産もそっくり失い、とうとう無一文になったのである。奉公人に 'She's as poor as you, or I.'  などと陰口を叩かれるとは気の毒の至りだ。

 どうだろうか、ただの恋愛小説だと思ったら大まちがい。あなたもきっと読んでみたくなったにちがいない。いずれ公開するからお楽しみに(笑)。

 本日二つ目のニュースは、落ちぶれてダウングレードという話ではなく、昨日思い切ってノートパソコンの Windows 8 を Windows 8.1 にアップグレードしたこと。どうしようかちょっと迷ったが、どうせいずれはやることになるだろうからと考えたのである。

 これからやろうというお方のために申し上げておくと、とにかく時間がかかるから、覚悟めされよ。途中でフリーズしたんじゃないかと思うほどである。もうひとつは、あらかじめマイクロソフト・アカウントを必ず取得しておくこと(これがなければアップグレードは完了しない)。

 時間を計ったわけではないが、ダウンロード開始から作業完了まで、たっぷり2時間半はかかったと記憶している。作業手順は単純だけれど、こう時間がかかるんじゃ、パソコンを一台しか持っていない方なら、まず半日は仕事にならないと思う。

 なおぼくの場合、このアップグレードによって使えなくなったアプリは今のところない。Smart Menu8 もそのまま動作している(だから 8.1で追加されたというスタートメニュー画面はまだ見ていない)。問題なさそうだから、あなたもお試しになってはいかが?

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Comments

>頭がこんがらがってきた

う~~ん、折角こんなに丁寧に解きほぐしていただいたのに、かなりの強度でこんがらがってしまいました。どんなふうに解きほぐしたらいいのやら・・・この小説の作者、きっと読み手の頭がこんなふうになってしまうことを意識してやっているんじゃあないんですか・・・
そうじゃないとすれば、わたしの頭が悪いのか、それとも西洋人とは思考のパターンが違うせいなのか・・・できれば後者ならば有難いのだけれど・・・

Posted by: 三友亭主人 | November 15, 2013 at 21:01

>三友亭さん

 記紀の世界よりはずっとわかりやすいかと……

 しかし舞台は極端に狭く、登場人物も少ないのに、途方もない広がりと奥行きを感じさせるところは、やはり天才の作品というしかありませんね。

Posted by: 薄氷堂 | November 16, 2013 at 08:54

いやはや、相続問題でお悩みだった理由がよくわかりました。相続と言うのが法律によって規定されているとするならば、家とか男女の地位だとか、そういうものに対するその国の思想まり、民族の思想というのがよくわかりますね。

Posted by: 根岸冬生 | November 16, 2013 at 11:19

いやぁ登場人物の名前からして複雑に絡み合っていますね。
遺産相続の法律というのも中々にややこしい…。
そういった複雑な関係が作品の奥の深さを醸し出しているのは判りますが、薄氷堂さんが手強い難敵と向かい合っているのが良く判りました。

しかし保険の発祥は英国で元々は博打から始まったというのが、この遺産相続の法を見ていて何か「らしいなぁ」と思ってしまいました。ちょっと考え方が似ているような。

それと固有名詞のスペルというのは独特で、下手したら向こうの人も正しく読めない事もあるだろうなと・・・

以前見た馬鹿な映画ですが、『2つの頭脳を持つ男』というコメディをちょっと思い出しました。

Posted by: Nori | November 16, 2013 at 17:48

>根岸冬生さん

 鋭いご指摘だと思います。

 注目すべきは、Edgar の死後遺産を相続するのが妹になっているところでしょう。勉強不足でよくわかりませんが、法律の改正があってそれが可能になったはずです。

 たぶんEdgarとしては、最初妹の身を思って遺言状を書き換えなかったのでしょうが、妹の死後もぎりぎりまで放置していたのはなぜかという点です。

 不動産に関しては、法律的に変更できないことになっていたのかな、とも思うんですけど、前にも申し上げたとおり、深入りすると泥沼にはまってしまいます。詮索好きな法学部や史学科に任せることにしましょう(笑)。

Posted by: 薄氷堂 | November 16, 2013 at 20:01

>Noriさん

 登場人物の名前のややこしさについては、エミリ・ブロンテの計画的犯行(笑)にちがいありません。

 西洋人が契約にやかましいことはよくいわれますが、とにかく細かいところまでよく読みますよ。ぼくの乏しい経験からいっても、その細かさといったら、大方の日本人の想像を絶するものがあります。「らしいなぁ」というご感想はもっともです。

> 固有名詞のスペルというのは独特で、下手したら向こうの人も正しく読めない事もあるだろうなと・・・

 それは日本人が難読姓名を読めないのといっしょでしょうね。特に英語の発音は複雑怪奇で、なんでこうなるの? というのが少なくありませんから。 

Posted by: 薄氷堂 | November 16, 2013 at 20:14

こんにちは! 遺産相続の話は難しいですね。
だからこそ、という感じもするのですが、
こんがらがってしまうのをわかっていて書いた、
そういう感じもしますね。

Windows8から8.1へのアップデートでそんなに?
しかもマイクロソフト・アカウントなんて、
いつからそんなにやかましくなったんでしょうね。

「.1」程度のマイナー・アップデートなら、
WindowsUpdateで自動的にやれよ、
と言いたくなりますよね。

Posted by: 只野乙山 | November 17, 2013 at 12:44

>只野乙山さん

 この作品にかぎらず、昨年ぼくの読んだ『大いなる遺産』はもちろん、『ジェイン・エア』も『虚栄の市』も、遺産相続問題が大きなウェイトを占めていますし、『エマ』や『フロス河畔の製粉所』もそれと無縁ではありません。結局万事金の世の中ということでしょうか。

 さて Windows8.1 アップデートですが、おすすめしたいようなしたくないような……

 乙山さんのおっしゃるとおりに「自動」アップデートされたら、えらいことになりますよ(笑)。なにしろファイルサイズがたしか(記憶ちがいでなければ)3ギガバイト以上なんですから。

 所要時間は環境によってずいぶんちがいがあり、約1時間という人もあれば、2時間という人もあり、中には途中何度もやり直しを迫られて、結局9時間近く(!)かかった人もいるとか。

 よくよく覚悟を決めたうえで実行したほうがいいようです。ぼくの場合は、今のところ幸運にも目立った不具合はないけれど、妙に起動時間が長くなったように感じます。困ったものですね。

Posted by: 薄氷堂 | November 17, 2013 at 22:13

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