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September 25, 2013

Daily Oregraph: 岸壁方丈記

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 岸壁上に置かれている、コンテナを改造した小屋。これを見て、ぼくは欲しいと思った。

 たかが人ひとり住むのに豪邸などいらぬ、車でガラガラ引っぱれるほどの小屋さえあればよいという思想を表明した作品としては、だれしもわが『方丈記』、または米国の『ウォールデン(Walden)』をまっさきに思い浮かべるだろう。

 実際鴨長明の小屋は折りたためば車で運べる造りであった。創意工夫に富んだ先生は、ただのインテリ爺さんではなかったのである。

 広さはわづかに方丈(約三米四方)、高さは七尺が内なり。所を思ひ定めざるが故に、地を占めて造らず。土居(土台のことか)を組み、うち覆ひを葺きて、継目毎に掛け金を掛けたり。もし、心に適はぬ事あらば、やすくほかへ移さんがためなり。

 つまり掛け金を外せば分解できる造りで、いかにも日本人らしい発想だと思う。いくら昔だって、勝手に他人の土地に小屋を据えるわけにはいくまいから、実際に先生が何回車を引っぱって移転したかは知らないけれど、成金豪邸趣味の正反対を行く精神が痛快である。『方丈記』に人気のあるゆえんであろう。

 そうだ、そうだよ。ジジイひとり暮らすのに、どれほどのスペースが必要だというのか。コンテナはちょっと無粋かもしれないけど、それさえ我慢すればこれで十分じゃないか。小さなベッドと机くらいは置けるだろう。どうせジジイの一日だ。本を読んで、酒を食らって、寝るだけではないか。

 しかし待てよ。トイレはどうしよう? 浴槽とまではいわなくても、シャワーはどうする? TVなんぞはいらないけれど、照明や暖房のこともあるし、ウィスキーにほうりこむ氷もいるし、電気はどこから引っぱろうか? やっぱり光回線は無理だろうか? 台所がなければ飯は三食コンビニか?……などと考えるうちにだんだんその気が失せてくるのであった。

 結局、心にかなはぬことあれども、そうやすくはほかへ移れんのだ、という味気ない結論に達したのであった。ああ、つまらない。

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 -薄氷堂さん、まあ、そう腐らず、これを肴に一杯おやりなさい。

 そうなぐさめてくださったのはスコップさん。十勝港で仕事をされたついでに、ブログのネタにでも……と、ご親切にも買ってきてくださったのである。涙が出そうになるほどうれしかった。どうもありがとうございます。

 スコップさん、明日も明後日もブログのネタがなさそうなんで、どうかよろしく。ダメ、やっぱり?

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Comments

こんにちは!
写真を拝見すると、ドアが付いていて、窓もありますね。
実際、ちょっと休憩したり、場合によっては一泊も可能かもしれません。
こういう場所に住んでみたい、欲しい、わかる気がします。
今回の記事で「樽のディオゲネス」を思い出しました。

小型トラックの後ろを住居にして、なんとか暮らしていけるのでは、
なんて考えましたよ。風呂は銭湯、トイレは公衆、
洗濯はコイン・ランドリーで行うのです。
トラックの屋根にはソーラー発電機を……なんてね。

Posted by: 只野乙山 | September 26, 2013 11:51

>只野乙山さん

 こういうコンパクトな住まいは、男心をくすぐりますよね。

 小型トラックといえば、車をすみかにして全国を放浪している人もいるみたいです。もっとも真冬の北海道は避けたほうば無難ですけど(笑)。

Posted by: 薄氷堂 | September 26, 2013 20:22

リアルに方丈記というのも惹かれるものがありますね。
実は鴨長明に縁のある下鴨神社に、記事にされている方丈が再現されておりまして、「こんな生活もアリかな」としばらくの間眺めておりました。

最近は『山小屋風物置』というのもありまして、真剣に買おうかと悩んだ時期もありました…

Posted by: Nori | September 26, 2013 21:12

>Noriさん

 『方丈記』はとにかく文章がすばらしいと思います。論旨すこぶる明快で、ゆく河の流れのごとく(笑)スラスラ読めるところは、近代的文章といってもいいんじゃないでしょうか。

 下鴨神社に再現された方丈はまだ拝見していませんので、いずれ行ってみようと思います(前回は上賀茂神社にしか行かなかったのです)。

 追記:Noriさんのブログをリンクさせていただきました。いずれ落ち着いたらコメントさせていただきます。

Posted by: 薄氷堂 | September 26, 2013 21:43

いやあ、うまそうなカレイだ。
こんなのが手元にあれば、何もブログなんか書かなくとも、ちょいとあぶっていっぱいやっていれば十分にしあわせにひたれるのでは・・・(笑)

どうも関西ではカレイが人気がないようで、スーパーに行ってもろくなカレイが売っていません。郷里にいる頃はよく食べていて・・・カレイで大きくなったようなものですが・・・

Posted by: 三友亭主人 | September 27, 2013 07:42

>三友亭さん

 このカレイは絶品です。

 写真のような小屋に住み、七輪でカレイを焼いて焼酎で一杯……夢ですねえ。

Posted by: 薄氷堂 | September 27, 2013 09:27

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