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September 24, 2013

Daily Oregraph: 栗物語

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 連休中はどこへも遊びに行かず、病院のお供やら、お寺参りやら、片づけものやら、仕事上の作文やら、その他雑事がいろいろあって、写真どころではなかった。

 ネタもなにもありはしないから、21日に撮ったいただきものの栗の写真を載せておこう。

 栗は秋の季語だから、ジジイとしては一句ひねって風流なところをお見せしたいのだが、あいにくそんな芸の持ち合せはない。こういうときのためにあるのが歳時記だ。どれどれ……

       別れ来て栗焼く顔をほてらする   西東三鬼

 いつも思うのだが、三鬼の句にはストーリー性がある。勝手にどんどん想像がふくらむのである。よろしい、それでは想像を働かせてみよう。

 え、とんでもない解釈をして笑われるんじゃないかって? いいんだよ。入試の答案じゃあるまいし、まちがったって平気の平左、そのほうが三鬼先生もかえっておもしろがってくれるにちがいない。

 第一の問題は栗を焼いているのが男か女かだが、丁か半か、ぼくは女とはった。三鬼先生みずから栗を焼いたって一向にかまわないけれど、それでは色気がない。下五で顔をほてらせているのが男では、どうにも絵にならぬ。脂ぎった感じさえするからだ。

 別れ際に男は女に栗を渡した。国から送ってきたのだという。

 -あら、いいの?

 -うん、坊主に食わしてやれよ。

 男はマッチをすってしんせいに火をつけ、半分開けた窓に向かって煙を吐き出した。ちょうど列車が通過して、線路脇に建つ安普請のアパートはぐらぐらと揺れる。

 -今度はいつ会えるかしら?

 -さあな。また連絡するよ。

 いわゆる密会というやつである。女が立ち上がって靴をはくと、

 -今日は送らないぜ。

 -うん、いいのよ。

 二人の間にどんな事情があるのかはぼくにはわからない。いくら責め立てられたって、わからないものはわからない。三鬼先生のみがご存じのことだ。いや、先生だってご存じないのかもしれぬ。

 たまたま栗を焼く女をみかけた先生が、想像をたくましくして「別れ来て」の上五を得た可能性だってあるだろう。いずれにしても西東三鬼が句にする以上、ちょいといい女であったことはまずまちがいない。

 さて国鉄か阪急かに乗って帰宅した女は、息子に食べさせようと栗を焼きはじめた。どういう焼き方をしたのかはしらないが、「栗焼く」とある以上、焼いたことは 100% 確実である。

 -おかあさん、栗、すぐに焼ける?

 -ちょっと時間がかかるわよ。はぜると危ないから、離れていてね。

 女は栗を焼きながら男のことを思っている。さきほどの余韻にひたっているのである。ちょっと頬が染まっているようにも見える。

 -あ、おかあさん、顔が赤いよ。

 -あら、そう? そうよね。だって火が熱いんだもの。

 お後がよろしいようで。

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Comments

いやあ、楽しく読ませていただきました。恐るべき想像力です。

いいですねえ・・・

ここででてくるたばこは「しんせい」でなければいけませんね。

Posted by: 三友亭主人 | September 24, 2013 at 21:35

>三友亭さん

 ぼくはどうも松竹大船調を抜けられないようですね(笑)。

 ワビサビもいいけれど、ぼくは三鬼の句が大好きなんですよ。特に女の影が感じられる作品。

Posted by: 薄氷堂 | September 24, 2013 at 23:05

>下五で顔をほてらせているのが男では、どうにも絵にならぬ

全く同意です。
でも想像力に乏しい私は、耳たぶにうぶ毛が生えている様な若い独身の女性を想像したのですが、人生の経験がまだ足りない様で…

Posted by: Nori | September 25, 2013 at 09:29

>Noriさん

 どういたしまして。ぼくなんか、この方面(どの方面?)の経験はおそまつなものですよ。数年前までは猫でさえ寄ってこなかったんですから。

> 耳たぶにうぶ毛が生えている様な若い独身の女性

 ははあ、観察力が鋭いですね。なんとなくNoriさんの好みがわかってきましたよ。独身でなくてはいけませんか(笑)。

Posted by: 薄氷堂 | September 25, 2013 at 21:38

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