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August 07, 2013

Daily Oregraph: ジャックナイフの謎

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 写真は錆びた安物の肥後守である。いまどきこんなナイフを使う人はめったにいないだろう。

 肥後守:小刀の一種。折込式で柄も鉄製、「肥後守」と銘を入れる。(広辞苑)

 「肥後守」は登録商標だという。写真のものは「肥後ナイフ」の銘があるから、氏素性はあやしいかもしれない。

 なんでこんな写真を載せたかというと、理由はふたつある。第一には、先日「ジャックと豆の木」の宿題を出した方が、今度はジャックナイフのジャックを調べてよ、というからである。第二には、西洋式のジャックナイフは小型の肥後守とはちがって「大型のポケット用折り畳みナイフ」を指すけれど、無い袖は振れないから代用したのである。

 なんだか夏休みこども相談室みたいな気分になってきた(笑)。

 -あのね、それは君もいまに大人になればわかるの。

 しかし、ほんとうに大人になればわかるのだろうか?

 各種辞書の語源欄を参照したところ、18世紀初めアメリカで使われ出した単語らしいのだが、語源は確定していないようだ。しかし OEDには 'cf. jackleg knife s.v.(次の語を見よ)JOCKTELEG.' という注記があり、Random House には [1705-15, Amer.; JACK (cf. JOCKTELEG) + KNIFE] とある。

 そこで jockteleg (= jackleg) を OED で引いてみると、「スコットランドおよび北部方言:(大型の)折り畳みナイフ」とあり、詳しい解説も載っている。かなりの長文なので、うんとはしょってご紹介しよう。

 1776年頃の Hailes 氏『スコットランド語彙』には「このことばの語源は不明であったが、近年刃物職人 Jacques de Liege の銘を入れた古いナイフが発見された」とあり、19世紀の書物にも、刃物職 Jacques 氏のナイフは欧州中に知られていたという記述がある。

 また、kの後のd→tという変化はスコットランド語ではめずらしくないという。つまり(Jacques→)Jock+(de→)te+(Liege→)Leg=jockteleg だというのである。

 へえ、そんなものかと感心して読んでいると、

 だが現在のところ、スコットランドの古物研究家たちは、ナイフ・文書いずれにおいても、上記 Hailes 氏記事の確証を得ておらず、Liege においてわれわれのために行われた調査の結果 Jacques なる刃物職がいたという証跡はやはり得られていない。

とあるのにはもっと驚いた。われわれのために行われた調査(inquiries made for us)の「われわれ」とは辞書の編集部にちがいない。どうやらこの単語ひとつのために現地(リエージュはベルギー)に問い合わせをしたらしい。いや、どうも恐れ入りました。

 有名な刃物職だったはずなのに存在の痕跡もなく、ナイフの現物がひとつも確認されないのは不自然だから、OED としては従来の語源説に対して懐疑的な立場を取っているようだ。ふしぎなことばである。

 -結局答はどうなの?

 -あのね、大人になってもわからないことってあるんだよ。

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Comments

薄氷堂さんへ

>大人になってもわからないことってあるんだよ。

私なんかは、大人になってからの方が「わからないこと」の方が多くって・・・
まあ、だから逆に人生が楽しくなってきたんですがね・・・

Posted by: 三友亭主人 | August 07, 2013 at 22:41

>三友亭さん

 ほんと、知らないことの多さに圧倒されますね。でもそれがわかっただけでもよかったかな?

 それにしても、OED というのはたいした辞書ですよ。無人島に持っていくべき一冊(紙だと一冊どころじゃありませんが(笑))かもしれません。

Posted by: 薄氷堂 | August 08, 2013 at 19:48

こんにちは!
あっ、「肥後守」ですね!
これ、昔はなんかどこにでもあったような気がするんですが、
近ごろはまったくといっていいほど見かけません。
いま肥後守ナイフはどこかで売っているんでしょうかね。
もう一度手にとって、鉛筆を削ってみたいのです。

Posted by: 只野乙山 | August 08, 2013 at 20:48

>只野乙山さん

 切れ味では折る刃式のカッターに負けるかもしれませんが、肥後守で鉛筆を削るのはなかなか味があるものです。

 そういえば最近ほとんどみかけませんよね。どこへ行っちゃったんでしょう(笑)。

Posted by: 薄氷堂 | August 09, 2013 at 17:52

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