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April 08, 2013

Daily Oregraph: 嵐のあとで

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 昨日強風が吹き荒れたので裏庭の板塀を点検したところ、なんとか無事だったので一安心。おまけに先日いつもの場所からは姿を消したと書いたフクジュソウが、実は遅れて咲いていた
わかり、ちょっといい気分である。

 今日から『嵐が丘』に取りかかる。この作品の初版は1847年で、1850年には姉シャーロットの編集した第二版が世に出た。第二版にはシャーロットが編者序文のほかに 'Biographical Notice of Ellis and Acton Bell' という文章を寄せている。

 カラー(Currer 実は Charlotte)、エリス(Ellis 実は Emily)およびアクトン(Acton 実は Anne)・ベル(Bell)の名で出版されたすべての作品は実は同一人の手になるものだ、と考えられてきた。

 その誤解を完全に解こうという趣旨なのだが、詳しい事情についてはここでは触れないことにする。この文章の読みどころは、早世した二人の妹について書かれた後半の部分にあると思う。

 エミリは1848年12月19日、アンは翌年の5月28日、それぞれ30歳と29歳という若さで病死した。二人に対する深い愛情
と悲しみのこもった文章はまさに天下の名文で、胸に沁みるものがある。

 エミリについて述べた「
男よりも強く、こどもよりも純真で、その天性には並ぶものなかった」という一文はたいへん有名なもので、エミリには vigour(精神力)と simplicity の両極端が同居していたとも評している。エミリは他人には優しい一方でみずからにきびしく、容易に自分を曲げぬ性格、つまり損なたちでもあったらしい。

 末の妹アンはエミリよりもはるかに地味な性格で、いわば常にじっと耐える女性であったらしく、シャーロットはエミリには energy と fortitude(不屈の精神)、アンには endurance と patience(いずれも忍耐) ということばを充てて比較している。

 シャーロットはさすがに作家らしい冷静な眼をもって二人の妹とその作品を評価しているが、世間がなんといおうとも、二人の才能に対する確信はゆるぎなく、

 他人にとっては二人は取るに足らぬ存在であったし、皮相な人々の目にはそれ以下の存在とも映ったが、身近にあってその生涯を親しく知る人々にとっては、二人はまことに善良であり、そしてまさに偉大であったのだといってすべてをしめくくることにしたい。

としている。

 編者序文もまた一読に値する文章で、並々ならぬ洞察力とエミリに対する深い愛情とに満ちている。せっかくいい文章を読んだのだから、今夜はその余韻にひたりつつ……やっぱり一杯やることになるなあ(笑)。

 どちらもたぶん文庫本には収録されているのではないかと思うので、ぜひご一読されるようおすすめしたい。

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Comments

いやあ、すごい嵐でしたね。
大和の方はそうでもなかったようなのですが、そちらの方ではいかがでしたか。報道によるとかなりすごかったようですが・・・

Posted by: 三友亭主人 | April 09, 2013 07:58

>三友亭さん

 おかげさまでわが家は無事でしたが、新聞によれば、当地方でもあちこち被害があったそうです。

 毎年この時期になると必ずこの手の低気圧がやってきますね。

Posted by: 薄氷堂 | April 09, 2013 10:19

「嵐なので、帰宅難民にならないように」
ということで17:00に退社した僕は、
途中の地下鉄車内で悪友に呼び出され
「嵐で客の減ったお店を励まさなければ」
という勝手な理由で行きつけの居酒屋へ。

嵐が駆け抜けるまでがんばって飲んでいました。

Posted by: 根岸冬生 | April 09, 2013 13:55

>根岸冬生さん

>「嵐で客の減ったお店を励まさなければ」

 すばらしいですね。しかし客の減ったお店は一軒だけじゃありませんから、相当の覚悟が必要ではないかと……

Posted by: 薄氷堂 | April 09, 2013 19:52

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