Daily Oregraph: 朝飯の話
今日から『虚栄の市』のノートに取りかかったが、めずらしく日中外で活動したため、わずか2ページ。まあ、のんびりやるさ。
帰宅途中南埠頭へ寄ってみたら、水面の氷がきれいさっぱり消えていた。そういえば今朝は濃い霧がかかっていたし、風が変わったのだろう。
さてふだんの生活パターンを外れたせいか、むずかしい本を開こうという気にはなれず、手近にあった文庫本をめくって漱石の『倫敦消息』をざっと読み流していたら、イギリスの朝食についてこう書いてある。
例のごとく「オートミール」を第一に食う。(中略)麦の御粥みたようなもので我輩は大好きだ。(中略)それから「ベーコン」が一片に玉子一つまたはベーコン二片と相場がきまっている。そのほかに焼パン二片、茶一杯、それでおしまいだ。
オートミールなんぞはたいしてうまいものとは思えないが、先生の好物であったらしい。オートミールの量、ベーコンやトーストのサイズは不明だけれど、たしかに全体としては質素な感じがする。
ハムの厚切り一切れ、(両面に火を通した)目玉焼きふたつ、(ジャガイモ料理の一種)ハッシュブラウンズ一盛り、トースト四切れにアップルゼリーのカップがひとつ
こちらは米海軍のスタンダードな朝食らしい(『オクトーバーを追え』による)。どう見てもイギリスの倍以上である。漱石先生なら胃を壊すことまちがいなし。どうもアメリカの豊かさを誇示しているフシがあるけれど、はたして自慢になるのかどうか疑問がないでもない。
後世の歴史家のために、ぼくのここ数年の朝食の内容を公開しておくと、(超)薄切りハム一枚、目玉焼きひとつ、トマト二~三切れ、オニオン・スライス少々、ヨーグルト約100cc、トースト一枚、ときどきリンゴ一切れ。まあ、日本人ならこんなものだろうと思うが……これでも多すぎるだろうか?
【追記】
YouTubeでみつけたBBCの「ヴィクトリアン・キッチン」という番組から、朝食のトーストと玉子、ベーコンの画像を拝借した。
トーストをあぶっているところ。ヴィクトリア朝時代だからしかたがないとはいえ、これは案外重労働だと思う。
トーストは切らずにこのまま専用のトースト立てに入れてテーブルに置かれていた。
目玉焼きとベーコン。ベーコンのサイズはこれで見当がつく。漱石の文章から推測するに、これは四人前であろう(三友亭さんなら一人前?)。
もちろん玉子は目玉焼きばかりではなく、ゆで卵、スクランブル・エッグ、ポーチド・エッグも食べる。
マフィンを食べることもあったようだ。19世紀の半ばまでは家庭でふつうに作っていたらしいが、ずいぶん手間のかかることもあって、パン屋から買うのが普通になったという。写真のとおり、上下に割って両面にバターを塗り、もとに戻して二つに切る。
この番組はコックを雇える家庭のキッチンを再現したものだから、漱石先生の下宿よりずっと高級な朝食らしく、ほかにキドニー(腎臓)を串焼きにしたものや、魚やキノコの料理なども登場する。オートミールはみあたらなかったが、好みによっては食べたのだろう。
アメリカの艦船の朝食風景も探せばみつかるだろう。しかしトースト四枚はやはり食い過ぎではなかろうか(笑)。
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Comments
通常はご飯とみそ汁派の私ですが時々はパンが食べたくなって、朝はパンで・・・ということがあります。
やっぱり、卵は欠かせませんね。それに私の場合はジャム。
朝の目覚めにあの甘いのが欲しくなるんですよね。それにスープ。もちろんインスタントですが、ポタージュやコーンクリーム。お腹を暖めたいんですよね。
野菜は手ごろなものがあれば少々、なけりゃあ、オレンジジュースぐらいってとこですか
Posted by: 三友亭主人 | February 02, 2013 06:47
>ハムの厚切り一切れ、(両面に火を通した)目玉焼きふたつ、
んんん?旧日本海軍(実父が司令部付き気象兵)もそうでしたが、今の米海軍も多分、調理には火を使わず全て蒸気を使用だと聞きましたが・・・
蒸気だけで炒めものとか何でもできるんでしょうかね?
ま、艦船は火気厳禁は納得できますが。
Posted by: アナログ熊さん | February 02, 2013 08:59
>三友亭さん
ぼくは日本人のくせにご飯よりパンのほうが好きなものですから、朝飯はトーストです。しかし四枚は食べません。
> 朝の目覚めにあの甘いのが欲しくなるんですよね。
頭脳労働者の宿命ですね(笑)。ぼくはヨーグルトにハチミツをかけて食べます(頭を使ってるから?)
Posted by: 薄氷堂 | February 02, 2013 09:44
>アナログ熊さん
一般商船ではガスを使いますが、艦船はちがうのでしょうか。
トーストはたぶん電気だと思いますよ。ほかの料理にも電気を使えるような気がします。
YouTube であれこれ検索すればわかるかもしれませんね。
Posted by: 薄氷堂 | February 02, 2013 09:49
いやあ、ベーコンエッグ、うまそうですね。
いま、渋沢栄一を読んでいますが
初めての洋食に、バターが美味だとか
カフェは胸がスカッとするとか
とても興味深いですね。
マフィンは好きです。
マクドナルドのソーセージエッグマフィンで慣らされたかしら。
Posted by: 根岸冬生 | February 02, 2013 10:57
こんにちは。
オートミールはスープ皿一杯分はあるでしょうから、
それをしっかり食べた後でトーストを食べ、
ベーコンエッグも付いてくるわけですから、
漱石のイギリスでの朝食は、平均的日本人からすると少し多めかもしれませんね。
薄氷堂さんの朝食、決して多くはありませんよ。
むしろ控えめなのではないかと思います。
今では少なくなったかもしれませんが、
残り物の惣菜とかを並べて、ご飯とみそ汁、アジの干物。
そしてご飯を二、三膳食すというのは、
かつての日本の朝の食卓ではよくあったはずだと思うのですが……
Posted by: 只野乙山 | February 02, 2013 10:58
>根岸冬生さん
BBCの番組では、マフィンにたっぷりバターを塗っていました。パンとバターは相性抜群ですね。
Bread and butter(バター付きパン)もポピュラーのようですが、あるドラマを見たら、パンは一口大のサイズに切ってあり、おやつのようにパクパク食べていました。
そういえば、「バタ臭い」ということばがあるように、バターは西洋の象徴でもありましたね。
Posted by: 薄氷堂 | February 02, 2013 17:01
>只野乙山さん
> オートミールはスープ皿一杯分はあるでしょうから
たぶんそうなんでしょうね。そうだとすれば、かなりお腹の足しにはなりそうです。漱石は砂糖をかけて食べたと書いています。
> 薄氷堂さんの朝食、決して多くはありませんよ。
それを聞いて一安心しましたが、さっぱり体重が減らないのはなぜでしょうか? トーストを0枚にするわけにもいきませんしねえ(笑)。
Posted by: 薄氷堂 | February 02, 2013 17:07