Daily Oregraph: 三日酔いの話
たった一晩遊んだだけなのにすっかりたるんでしまい(笑)、まだ頭が少しボーッとしている。三日酔いというやつかもしれない。
さて、ネタもないことだし、今夜はよい子のみなさんにお話をしてあげましょう。
町を歩いていると、不意に声をかけられた。外国人の男が四、五人、みな厚手のコートのポケットに手を突っこみ、街角に立ってぼくをじっと見つめている。いずれも眼がひどく落ちくぼんだ暗い顔をしており、背はそれほど高くないが、がっしりした体つきである。
四角い顔をした中年の男が、
-トウゲの場所を教えてくれないか。
と英語でいった。どうやらトウゲというのは、酒場かなにかの名前らしい。
ふと気がつくと、少し離れた場所にもやはり四、五人のグループがかたまってこちらを見ている。ははあ、ロシアか東欧の秘密警察だな、と直感した。
男の依頼には有無をいわせぬ調子があったから、ぼくは黙ってうなずき、あたりを見回すと、近くに一軒の雑貨屋があった。
公衆電話でもあれば番号案内で調べようと思い、雑貨屋に近づくと、店の脇にはちょっとした広場があり、テーブルと椅子が並んでいた。テーブルのひとつには、やはりロシア人らしい若い女が三人座っていた。いずれも目の大きい美人だが、彫像のように無表情で、じっと前方をみつめている。
すると一人の女が椅子から立ち上がり、いきなり衣服を脱ぎ捨てて全裸になると、そのまま数歩先へ行って、舗装の上ににごろりと横になった。そのとき気づいたのだが、その近くには裸の白人女がもう一人、地面に座ったまま、体を丸くして膝をかかえている。
-おい、やめろ!
とぼくが叫ぶと、テーブルに残った二人の女は、笑いながら裸の女たちに向かって声をかけたけれど、なにをいっているのかはわからなかった。
雑貨屋の中は灯りが消えていて暗かった。あちこちにごちゃごちゃとものが積まれて、整理ということをした試しがないように見えた。ガラスのショーケースの上にレジスターが置かれ、その向こうに中年の女主人がいたけれど、顔はよくわからない。
ピンクのダイヤル式電話は、やっと手の届くような高い場所にみつかった。ぼくは財布から十円玉を二つ取り出して一枚入れると、苦労してダイヤルを回した。受話器からは女の声がしたので、ぼくはトウゲの電話番号をたずねた。
-よくおたずねくださいました。トウゲなら札幌と小樽にもございます。よろしかったらどうかご利用ください。
というようなことを、女はペラペラしゃべりはじめた。
よその土地の情報をもらったってしかたがないから、釧路のトウゲだ、といおうとしたところで、プツッという音とともに電話が切れてしまった。ばかばかしい、たかが電話番号を確かめるだけなのになぜ十円玉が何枚もいるのだ。どうしようかちょっと迷っていると、電話のベルが鳴り出した。
受話器を取ろうとすると、いつの間にか電話機はいっそう高い場所に移っていて、手が届きそうでなかなか届かない。ベルは鳴りやまない。やっと受話器を手にすると、こんどは男の声が聞こえてきた。
その男も電話会社の担当らしいのだが、やはり電話番号は一向に教えてくれず、話がどんどんそれていく。男はラジオのアナウンサーのような落ち着いた口調で、さっぱり中身のない話を愛想よくつづけるのであった。
ぼくは次第に腹が立ってきた。しかし秘密警察や裸の女、それにトウゲのことよりも、もう一度電話が切れたらどうしようという奇妙な不安がだんだんつのってくるのであった。
-はい、これでおしまい。
-なんだい、それでおしまいかよ。さっぱりわけのわからん話だなあ。
-おれにもわけがわからないのさ。夢の話だからね。しかし最近これほどハッキリ記憶している夢もめずらしい。ほとんど脚色ゼロだから、精神分析の材料にでもしてくれたまえ。
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Comments
それでは、ちょっとフロイトをかじった私めが分析を!
「夢は願望の実現」ですが、逆にそうなっては困る逆の無意識を現実のように見る(夢の中で)のです。むしろ、こちらの方が多いです。
ポイントはピンクのダイヤル式受話器ですね。
ということは、昔風に言うと「総天然色」で見てたのですね。
これ以上は個人情報に踏み込むことになりますので、直接メール致します。
私なんぞもっと異常に具体的で、埼玉県狭山市の女子短大の隣接地に、古代の遺跡が発見され、伝説の出雲大社(高さ30mの階段のに立つ社)と同じ遺構だと言うことで・・・オイオイ
朝起きて、検索しましたが、あるわけないでしょ!
女子短大はけっこうありましたが、柱を3本結合させた古代の超高層社殿遺跡は、さすがに埼玉には無理か・・・
あったら私が発見者?(笑)
ま、そんなもんです。ハイ
Posted by: アナログ熊さん | January 25, 2013 22:31
>アナログ熊さん
ハハハ、これはえらいことになりましたね。
> ちょっとフロイトをかじった私めが分析を!
熊さんにそういう特技がおありとは知りませんでした。
女性が何人か登場していますから、どういう診断を下されるか、戦々兢々ですよ(笑)。
でもまだリビドーが残っているとしたら、ちょいとうれしくないこともありません。
Posted by: 薄氷堂 | January 25, 2013 23:27