Daily Oregraph: Kyoto 2012 上賀茂雨のブルース (1)
12月8日。十年ぶりにやってきた上賀茂神社は、丸善とちがって(あたりまえか)、そっくりそのままであった。
最初の鳥居をくぐって左側の芝生が、その昔ソフトボールをして叱られた芝生である。あのときのバチあたりどもはみな元気だろうか? ひょっとしたら神罰をくらわずに生き残っているのはぼくだけかもしれない。
大きな神社には付き物の酒樽。一番上の段の左側にはまだ空きがある。福司さん、いまからでも遅くはありませんぞ。
重要文化財細殿前の立砂(たてずな)。神が降臨した山の象徴である。シンプルでたいへん美しいかたちだが、どのようにして砂を盛るのだろうか。
この砂は鬼門に撒くと清めの効果があるらしく、無人販売している。
みなさん必ず一枚写真を撮るのがここ。ぼくも観光客の作法に従ってパチリ。ここはこのアングル以外はまず考えられないだろう。
……と、ここまでは順調にことが運んだけれど、
いきなり雨が降り出したのには閉口した。
雲の向こうに太陽が見えるから、どうせにわか雨だろうとたかをくくって雨宿りしたけれど、一向にやむ気配がないどころか、雨足はだんだん強まってきた。天気予報大外れである。
用意のいいご夫婦は相合傘で境内の散歩を楽しんでいるが、こっちは身動きが取れず途方に暮れていると、同じく雨宿りしていた地元のおばあさんに声をかけられた。
京都弁はむずかしいから再現しかねるが、「せっかく遠くからおいでになったのにお気の毒になあ。社務所に行けば傘が買えますよ。たしか一本300円」と、親切にも教えてくださった。このように、京都の人の美点は、観光客を一目で見抜き、この上もなく親切にしてくれることである。
しかしこの町に住民票を移したとたんに扱いが変わることも覚えておいたほうがいい。京都人の眼力の鋭さは尋常ではなく、観光客のふりをしたってダメ(笑)、田舎者のあなたのふるまいはたちまち厳しい批判にさらされるのである。それに気づかない人はよほど鈍感にちがいない。
観光客のありがたさで、おばあさんの情報に従って無事傘を入手したはいいけれど、この雨で行動の自由が半減したので、当初の予定を変更し、賀茂川の向う岸に渡ることにした。
鳥居前の景色は約40年前とほとんど変わらない。
ほらね。これは1974年3月、アナログ熊さんがウロウロしておられた頃の写真である。天気さえよければ、この周辺をゆっくり歩くつもりだったのだが……
御薗橋は工事中であった。
御薗橋上から賀茂川の下流を見る。写真向かって左(東)が上賀茂神社方向である。
雲の向こうに太陽がぼんやり見えることは、水面に反射する光からもわかるけれど、雨はあいかわらず。このあともしばらく降りつづくのであった。
次回は御薗橋を渡り切ったところから。観光からはちょっと外れるので、おもしろくはないことをあらかじめお断りしておきたい。
【12月19日追記】
アナログ熊さんのコメントに関連して、境内に展示されていた屋根の構造模型をごらんいただきたいと思う。
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Comments
>次回は美薗橋を渡り切ったところから。観光からはちょっと外れるので、おもしろくはないことをあらかじめお断りしておきたい。
いやあ、楽しみですな。上賀茂神社も下の方の神社もその気になれば出かけることもあるでしょうが、美薗橋を渡り切ったあたりなんて、普通、観光にはいかないでしょうからね。
Posted by: 三友亭主人 | December 18, 2012 21:52
>三友亭さん
京都案内本は数あれど、まずお目にかかれない超ディープな世界が待っていますよ。景色としてはおもしろみゼロですけど(笑)。
とにかく雨には弱りました。写真がへたくそなところへもってきて、あまりにも暗すぎるため、まるで色が冴えないんですよ。
Posted by: 薄氷堂 | December 18, 2012 23:36
また呼ばれたような...
立砂の補修作業中の画像がここのブログにありました。
http://blogs.yahoo.co.jp/masuda_3621takurou/24176086.html
使うのは水だけだそうで、砂の粒子の大きさが絶妙なんでしょうね。
楼門の檜皮葺きもだいぶ傷んできていますね。入って右奥には上屋がかかって修理中でしょうか。
最近の下鴨神社のブログでも、工事中の上屋が載っていました。
伏見稲荷神社は全ての檜皮葺き屋根が葺き替えられていました。
さすがに民主党政権でもこれだけは仕分け出来なかったのでしょう。マジ
Posted by: アナログ熊さん | December 19, 2012 09:12
>アナログ熊さん
お呼び立てして申し訳ありません。しかし上賀茂を扱うからには、熊さんを無視するわけにはいきませんので……(笑)。
> 入って右奥には上屋がかかって修理中でしょうか。
さすがです。屋根の模型が展示されていましたので、写真を追加しておきました。
Posted by: 薄氷堂 | December 19, 2012 10:54
ついでに植物素材の屋根の解説を。
檜皮葺きは文字通り立木状態の檜の皮を剥ぐのですが、これで木が枯れるわけではありません。何年か経てば、皮は再生します。
それに対し杮(こけら)葺きは、素性の良い立木を切って1尺〜1尺2寸くらいに輪切りにし、それを厚さ3〜4ミリ程度にナタで割ったものを1寸ずつずらして約10枚重ねあわせます。
これは当社で施工した重文の応急修理時の杮葺きの葺き方詳細です。
http://ohkuma-bankin.com/kanasanajinja-tahoutou/pages/B012_tekkyo_kanryo3_jpg.htm
これがこうなります。
http://ohkuma-bankin.com/kanasanajinja-tahoutou/pages/D041_hamaguri6_jpg.htm
どちらも周囲に大木や川があり、常に湿度が保たれていないと長く持ちません。苔が生えたりしても問題ありません。
同じ植物素材でも茅葺きは全く逆で、良く日が当たって乾いていないと長く持ちません。
それから神社の屋根には基本的に瓦は使いません。
なぜって瓦は佛敎伝来とともに来た屋根材で、神社は佛敎よりもはるか昔から在りましたからね〜〜。チャンチャン
Posted by: アナログ熊さん | December 19, 2012 13:11
>アナログ熊さん
どうもありがとうございます。当ブログもかなりアカデミックになってきましたね(笑)。
> 周囲に大木や川があり、常に湿度が保たれていないと長く持ちません。
なるほど上賀茂といい下鴨といい、その条件にぴったりですね。神社は自然保護の役目も果たしているわけ。にわか雨に打たれるくらい我慢しなくちゃいけません。
ところで、当地方にも昔はトタンの代わりに薄い板を用いた、柾(まさ)ぶき屋根の家がありました。たぶん中世の庶民の家はたいていそんなものだったはずですね。
Posted by: 薄氷堂 | December 19, 2012 19:53