Daily Oregraph: 春採湖畔 落葉を踏んで
ひさしぶりに晴れたので、春採湖畔定点撮影。撮るたびに景色が赤みを増してくる。
湖畔の散歩道は、場所によってはほとんど落葉で埋めつくされている。
読書のほうは順調に進んでいる。しかしこの本(『大いなる遺産』)は、途中途中で感想を書きにくい作品だと思う。
ウィルキー・コリンズは読者を「笑わせ、泣かせ、じらす」のが小説家の仕事だと言い放ったが、その点ではディケンズはプロ中のプロである。『大いなる遺産』などはその典型のひとつといっていいだろう。
まずあらかじめ謎をいくつかしかけておく。明らかに読者をひっぱる作戦だとは承知していても、ついつられてしまうことはいうまでもない。謎は適当な時期にひとつひとつ明かされていくのだが、これまた巧妙な作戦である。それでもまだ謎は残るから、読者は先へ進まざるをえないというわけだ。結局これは謎ときで読者の興味をつなぐ推理小説の手法に近いと思う。
つまり感想を書きにくいというのは、謎が作品の興味の中心である以上、どうしてもネタばれになりがちだからである。
話をおもしろくするために、偶然がうまく重なりすぎているところもないではない。しかしそれはしかたがないだろう。なにしろ生活がかかっているのだから、売れもしない本を書くわけにはいかないのである。 純文学だの大衆文学だのという、腹の足しにもならぬ議論に首を突っこんでいるヒマはないわけだ。
しかしただおもしろいだけで内容空疎な作品は書かないところが、大作家の大作家たるゆえんである。この種の小説を飯のタネにしている文学部の先生たちとのうるわしき共同(笑)が存在することは、みなさまご承知のとおり。
まあ余計なことは書かず、楽しんで読めばいいのだろう。
The comments to this entry are closed.
Comments
林の中の散歩道の落ち葉は風情があって良い物ですねぇ。
っと・・・こちらも毎年のことながら頭の痛い落ち葉の季節になりました。
濡れ落ち葉(比喩ではなく)を掃除するのって本当に大変なんですよねぇ。
原文ではもちろん無理なのですが、今日の日記を拝読してディケンズ(ほとんど未読)の翻訳を読み始めてみようかなぁ?と思いました。
Posted by: りら | November 02, 2012 06:37
>話をおもしろくするために、偶然がうまく重なりすぎているところもないではない
学生の時分、確か近代文学の演習の講座で発表者が誰だったかの小説に、筋立てが調子よすぎる、つじつまが合いすぎる・・・なんて批判したら、担当の先生が一言
・・・仕方ないですよ。小説家だって食って行かなきゃあなんないんだから・・・
Posted by: 三友亭主人 | November 02, 2012 06:42
もう落ち葉ですか。
今年は北海道に行きそこねたな。
僕は冬はいけません。
コケたら骨が折れます。
大岡昇平の『現代小説作法』だったかな。
ストーリーとプロットを論じて
物語の展開に因果を含めたのは。
まあ、仕掛けが過度かどうかというあたりが
いい小説の境界線かもしれませんね。
Posted by: 根岸冬生 | November 02, 2012 10:48
>りらさん
これ、おもしろい小説ですよ。退屈はしないと思います。
主人公が自分からなにか事を起こすというより、運命に翻弄されるところは『オリヴァ・ツィスト』同様ですね。そのせいでしょうか、全体にちょっぴり暗い気分が流れているような気もいたします。
Posted by: 薄氷堂 | November 02, 2012 11:54
>三友亭さん
今年に入ってから読んだ小説は、『虚栄の市』を除けば、いずれもペーパーバックで約500頁。これを飽きさせずに読ませるには、相当の工夫が必要ですよね。
ディケンズの場合、たしか月間の分冊で作品を発表していましたから(『虚栄の市』もそうですが)、毎回山場を作って、「さてこれからどうなりますことやら。このつづきはまた明晩」という寄席みたいなところがあります。明日の晩も客に来てもらわなくては困るわけです(笑)。
調子が悪ければ客足が途絶えますから、偶然のひとつやふたつ重なってもケチはつけられないと思います。
Posted by: 薄氷堂 | November 02, 2012 12:06
>根岸冬生さん
『オリヴァ・ツィスト』なんかは、ストーリー展開に出たとこ勝負みたいなところがあってビックリします。分冊を出すごとに読者の反応をうかがって、ストーリーの細部に修正を加えたんじゃないかと思いますけど、あれれ? と驚いた覚えがありますよ。
しかしよく考えてみると、融通無碍、自由自在の境地に達しているといえなくもなく(笑)、とにかく一種の職人芸であることはまちがいないですね。
『大いなる遺産』のストーリーはずっと一貫性があり、よく練られています。この作品も、もう発表から150年、いまだに愛読されていることが値打ちを証明していると思います。
Posted by: 薄氷堂 | November 02, 2012 12:19