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November 12, 2012

Daily Oregraph: しょせんは炭素

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 はりきって山花温泉へ行ったら、今日から三日間館内総点検のため臨時休業だという。あとで新聞を見たらちゃんとお知らせが載っていた。日ごろ新聞をろくに読まないからこういうことになる。

 雨もパラついていたし、しょうもない写真しか撮れなかったけれど、ここは港町から南新埠頭へ向かう道路である。わずかながらに昭和の風味が残っていると思う。

 温泉にはふられたが、文句をいってもしかたがないので、部屋に戻ってまた本を開く。執事のベタレッジ老が問題のムーンストーンを初めて目にする場面である。

 おお、なんと! それはダイヤモンドでした! 大きさはチドリの卵ほどもありましょうか! ダイヤモンドの放つ光は、秋の満月の光でした。石をのぞくと、黄色い深みに引きずりこまれ、すっかり目を奪われてしまうのでした。底が知れないのです。親指と人差し指でつまめるほどのこの宝石には、はても知れぬ天そのものの深さがあるようでした。ダイヤモンドを日にかざして部屋の灯りを落とすと、その奥底の輝きからは、月のような光が暗がりの中に放たれるのでした。

 ダイヤは長石ではないから、『月長石』はいかにもまずいけれど、このくだりを読むと邦題を『月光石』とでもすべきではないかと思う。月光というと青白い光を連想しがちだが、満月なら黄色でもちっともおかしくはないからだ。

 チドリの卵というのは見たことがないから見当もつかぬが、なにしろダイヤである。ウズラの卵ほどだとしても、べらぼうな価値があるにちがいない。物語のはじめのほうには、この石を鑑定した結果は少なくとも2万ポンドとある。実は石のまん中にごくわずかのキズがあり、もしそのキズを避けて何個かに分割して加工すれば、さらに価値が増すのだという。

 問題はポンドの価値だが、ジェイン・エアの年俸が30ポンドだったことを考えれば、いくら低く見積もったって、当時の1ポンドには1万円以上の値打ちがあったはずだとぼくは思う。とすれば最低でも2億円になるが、それほどのダイヤなら、もっと高額ではないだろうか。

 しかしダイヤモンドに目がくらんだ一同の中には、ひとり冷静な紳士がいるのであった。

 
「炭素だよ! ベタレッジ、いいか、しょせんは炭素にすぎぬ!」

 すばらしい! こういうセリフを覚えておくと、いつかあなたの役に立つときがあるかもしれない(笑)。

 なんの罪もないどころか、生命の基礎ともいうべき炭素を目の敵にしているみなさまは、さっそくダイヤをお捨てになって、低炭素社会(笑)とやらに貢献されてはいかがだろうか。

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Comments

大きな千鳥の卵ほどのダイヤですか・・・
・・・といっても、千鳥の卵がどれほど大きいかは知らないんですが・・・

いくら所詮炭素と言っても、それに付きまとう金額が大きすぎますよねえ。ダイヤの値打は分からなくとも、それに付きまとう金額は・・・私にだって想像はできます。

ダイヤを所詮炭素といって切り捨てられても、札束は所詮紙切れといって切り捨てられはしませんよ。

Posted by: 三友亭主人 | November 12, 2012 at 19:57

>三友亭さん

 -あっ、薄氷堂さん、あなた一万円札を燃してヤキイモを!

 -紙切れだよ! しょせん紙切れにすぎぬ。

 焼き上がったイモは、夕闇の中で満月のように黄色い光を放っているのであった。

Posted by: 薄氷堂 | November 12, 2012 at 20:20

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