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November 08, 2012

Daily Oregraph: Moonstone はムーンストーンか?

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 天気予報がよいほうに外れて青空が広がった。しばらく天気が悪かったから、気分が晴れ晴れする。

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 11月2日に撮影した木は、すっかり葉っぱが落ちて丸裸になってしまった。

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 『大いなる遺産』を読了したお祝いのケーキ。マジメに読書すればするほどケーキを食べる回数が増え、腹が膨張するという大いなる矛盾。

 さて今日のタイトルだが、ウィルキー・コリンズの The Moonstone (邦題『月長石』)について考えてみようという趣向。

 Moonstone はムーンストーン(月の石)にして、ムーンストーン(月長石)にあらず。別に翻訳業界にケンカを売ろうというわけではないが(笑)、明らかに誤訳なのである。

 コリンズの小説に登場する moonstone の正体は黄色いダイヤで、もちろん本文にも書いてあるし、ペンギン・ブックの裏表紙にも "The Moonstone, a yellow diamond of unearthly beauty" 云々と明記されている。

 それなら月長石としての moonstone はなにかというと、OED によれば、アデュラリア(adularia 水長石)やアルバイト(albite 曹長石)のたぐい、古くはたぶんセレナイト(selenite 透明石膏)を指したのではないかという。いずれにしてもダイヤなんかじゃない。

 「あんたうるさいよ。そんなことどうでもいいじゃないか」などと笑ってすませてはいけませんぞ。なぜかというと、計り知れぬ価値を持つ大型のダイヤであるムーンストーンをめぐって流血の事件まで展開されるのだから、二級品の宝石の名前を邦題に充てるのは無理があるからだ。ふつう安い宝石を欲しがって危ない橋を渡ったりはしないだろう。

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Comments

私にとっては「月の石」っていったら・・・

やっぱり、万博の時のアメリカ館のあれですね。
アポロが持ち帰ったっていうあれですが・・・

万博には二度ほど行く機会があったのですが、並ぶのが嫌でアメリカ館には行かずじまいでした。

ちょうど薄氷堂さんが京都にいらっしゃった頃ではないでしょうか?

ちなみに私は小学校の4年生でした・・・

Posted by: 三友亭主人 | November 08, 2012 22:00

>三友亭さん

 まさにおっしゃるとおり、当時ぼくは京都市民でした。

 月の石に目がくらみ……というわけじゃありませんが、大阪万博には行きました。ふつうならわざわざ万博見物に出かけやしないんですけど、友人が東京から来て誘ってくれたのです。

 ぼくのビンボーはよく知っているから(笑)、友人のおばさまがスポンサーになってくださったので、万博よりもそのご好意のほうがうれしくて涙が出ましたよ。

> ちなみに私は小学校の4年生でした・・・

 1970年に小学四年生ということは……現在では神社の狛犬ほどのお年ですね。

Posted by: 薄氷堂 | November 08, 2012 23:24

あー!そうだったのですか!>誤訳
ムーンストーン(つまりは月長石)という輝石(最近ではパワーストーンと言うようですが)がありますから、それかと思ってました。
でも、あれでは人を殺すという動機になりませんでしょうねぇ。

黄色いダイヤのリング、昔持ってましたっけ・・・
これまた人殺しのネタになるような代物ではありませんでしたが。

Posted by: りら | November 09, 2012 02:05

>りらさん

 この件については、すでに気づいている人は多いと思うのですが(たぶん)、外国の小説の邦題は、いったん定着してしまうと訂正するのがむずかしいのでしょうね。

 ウィキペディアの「月長石(小説)」の項を見ると、「日本語版は1970年に東京創元社(創元推理文庫)より発売された」とありますが、これも疑問です。

 文庫化される以前に翻訳が出ていたのは、まずまちがいありません。ぼくは高校生の時分に、昔の木造二階建ての市立図書館で手にしているのですから。

 なおウィキペティアの記事中の「あらすじ」には、「イギリス軍の将校が、バラモン教徒の寺院に長く秘蔵されてきた秘宝・黄色いダイヤモンドの月長石を奪う」などと書かれていますが、「黄色いダイヤモンドの月長石」などありえないわけですから(笑)、案外気づかずに読み流している人が多いのかもしれませんね。

Posted by: 薄氷堂 | November 09, 2012 08:09

いやいやこういう御指摘は大事です。
きっと、翻訳者の思い込みにハマっちゃっただけの誤訳でしょう。

ちなみに、もう20数年前、地球物理学の第一人者・松井孝典さんのインタビューをとったことがあるんですが
あのアポロによる「月の石」の学術的価値ってものすごいらしいですね。
それこそ、ダイヤモンドどころではない感じです。

Posted by: 根岸冬生 | November 09, 2012 11:22

こんにちは。
まあ、ふつうムーンストーンといえば、
白っぽくて半透明の石を指しますよね。
だけどあれ、なかなか魅力があって好きですね。
銀の台とリングにはめてある指輪なんて、
じつに慎み深くて素敵に思います。

読了、おめでとうございます!
ケーキもおいしそうですよ。

Posted by: 只野乙山 | November 09, 2012 12:02

>根岸冬生さん

 誤訳というのは、ある意味避けられないものです。名手といわれている方だって、絶対にミスがないというわけにはいかないでしょう。

 だって、

 にんげんだもの   みつを

ですからね(笑)。

> アポロによる「月の石」の学術的価値ってものすごいらしいですね。

 なるほど、そうでしょうね。値段のつけようがありませんし。もっとも女性に人気があるかどうかは別問題ですが……

Posted by: 薄氷堂 | November 09, 2012 19:49

>只野乙山さん

 ありがとうございます。写真のケーキですが、うまかったですよ。

 たかが本を一冊読んだくらいでお祝いしなくてもいいんですけど(笑)、人間には一区切りつけるための儀式も必要だと思うのです。

Posted by: 薄氷堂 | November 09, 2012 19:52

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