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May 15, 2012

Daily Oregraph: ケーキはほどほどに

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 裏庭のニリンソウのツボミ。

 天気予報では午後から明日いっぱいにかけて雨らしいので、朝のうちに昨日に引きつづき枯葉や枯草を片づけた。一時間ほど作業してゴミ袋ふたつ分集めたが、まだどっさり残っているので途方に暮れてしまう。

 結局兵力が足りないのである。ぼくの予想では、三人がかりでも最低半日を要するだろう。えらいことになってしまった。

 昨日から体力気力の低下が著しく、Emma はまだ第2章。やっと文章の呼吸が少し飲みこめてきたばかりだから、内容についてはまたいずれ……と思ったら、おもしろい箇所がみつかったので、ちょっとだけ。

 話せば長いことになるから事情は一切省略するとして、ミス・テイラーが結婚したとお思いいただきたい。ミス・テイラーって誰だい? という疑問は床の間にでも置いて、無理にでもそう思っていただかなくては困る。

 結婚式がすんで a few weeks というから、ここでは少な目に見積もって、約二週間としておこう。

 彼(エマの父)をひどく悩ませていたウェディング・ケーキはすっかり食べ尽くされたのだった。

 エマの父は胃弱だから、こってりしたケーキを受けつけない。彼は自分にダメなものは他人にもいけないと思いこむたちの人物である。会う人ごとに、新婚家庭に行ってもウェディング・ケーキを食べちゃいけないという忠告を与える。

 もちろんみなそんな忠告を無視してケーキを食べる。その報が伝わってくるたびに彼の心は痛むのであった(実にヘンな人である)。そのケーキがやっとなくなったからホッとしたというのである。

 しかし二週間ももつウェディング・ケーキとはいかなるものであろうか? 実はぼくには心当たりがあるのだ。エマの父をただの変人と思ったら、古典文学の解釈を誤ることになるだろう。

 もうずいぶん以前の話だが、仕事である船へ行ったとき、

 -去年のクリスマス・ケーキをごちそうしよう。

 -えっ、クリスマス・ケーキ?

 食べたよ、食べましたよ。英国人の船長が出してくれた数ヶ月前(たしか半年近かったと記憶している)のクリスマス・ケーキを……涙とともに。

 ああ、いったい砂糖をどれだけ使っているのだろうか。甘すぎて頭がキーンとするのである。せっかくの好意を無にはできぬから、苦労の末食べ終わったときには、ほとんど正気を失いかけていた(けっしておおげさではない)。

 しっとりとしたふわふわのケーキを想像してはいけない。防腐剤の砂糖が飽和状態になった、堅めのボロボロ崩れるケーキなのである。もし問題のウェディング・ケーキが同種のものだとしたら、二週間はおろか、何ヶ月でも平気でもつにちがいない。まことに申し訳ないが、ぼくは英国人の味覚を疑わざるをえなかった。あれでは胃弱の人はたまるまいと思う。

 夏目漱石の胃弱が悪化した原因は、英国留学中にエマの父の忠告を無視して食べたケーキにちがいない。お気の毒に。

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Comments

ニリンソウですか・・・かわいらしいなあ・・・

ところで、ロンドンにいたころの漱石の食事について調べてみたら
http://www.shinchosha.co.jp/books/html/141905.html

なんてページがありました。ロンドンでの食事にはかなり辟易としていたみたいですね。食い意地の張った漱石にこうも言われるわけですから、かなり当時の食の状況は悪かったと言わざるを得ない・・・今はどうか知らないけれども・・・

・・・でも私たちが小さかったころのバタークリームのケーキなんて言うのも、今食べたら食えたもんじゃあないような気がしますね。

Posted by: 三友亭主人 | May 15, 2012 at 20:42

>三友亭さん

 イギリスの料理は昔から評判が悪いですけど、上流家庭の場合、腕のいい料理人を雇っていれば、うまいものを食べられたと思います。

 エマ嬢の家では今夜お客があって(笑)、彼女はさかんにチキンの挽肉料理と(たぶんグラタン風の)牡蠣をお客にすすめています。

 そのほかエマのお父さんおすすめなのが、リンゴのタルト(パイ)で、わが家のは生のリンゴ100%を使っているから体にいいんだそうです。それから茹で加減がまた健康によろしいというゆで卵も、お父さんのおすすめ。

 一般家庭はともかく、こちらのお宅はお金持ちですから、たぶん料理はうまいと思いますよ。

 漱石先生はたぶん食事をけちって本を買いあさったはずなので、ろくなものを食べていなかったかもしれません。

 ぼくはお金がないから、富豪の邸宅に招待されないかぎり、英国に行くつもりはありませんけど(笑)。

Posted by: 薄氷堂 | May 15, 2012 at 23:44

>食べたよ、食べましたよ。英国人の船長が出してくれた数ヶ月前(たしか半年近かったと記憶している)のクリスマス・ケーキを……涙とともに。

まさか、乾物じゃああるまいし。
そんなもんが食えるんですか?

西洋人の芸術性はすすんでいるが
生活文化は必ずしも文明的ではないからな。

Posted by: 根岸冬生 | May 16, 2012 at 10:00

薄氷堂さんこんにちは~いつも楽しく読ませて頂いてます。
いま、釧路市立美術館で開催中の「愛のヴィクトリアンジュエリー展」にヴィクトリア女王のウェディングケーキを模して2005年に作られたシュガーケーキが展示されています。
食べる事は出来ないものでしょうが、とても美しいケーキですよ。

Posted by: holly | May 16, 2012 at 13:37

>根岸冬生さん

> そんなもんが食えるんですか?

 イギリス人の名誉のために申しますと(笑)、ケーキそのものは数日前に作ったかのような口当たりでした(柔らかいケーキじゃありませんので)。

 なぜか? 砂糖のおかげですよ、防腐剤としての砂糖が効いているのです。世の中にあれほど甘いものが存在するとは、夢にも思いませんでした。世界観が一変するほどの、いわば狂気の甘さなのです。

 悪夢ですね。

Posted by: 薄氷堂 | May 16, 2012 at 22:35

>hollyさん

 へえ、そんなものが展示されているのですか。

 2005年に作ったというのはきっとウソですよ。なにしろ古いものを大事にするお国柄ですから、19世紀に作ったものをそのまま展示しているにちがいありません(笑)。

 腐敗していないはずですから、きっといまでも食べられますよ。ああ、想像するだけで胃がキリキリ痛んできました。

Posted by: 薄氷堂 | May 16, 2012 at 22:40

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