Daily Oregraph: 春採湖畔
天気が悪かったせいもあるけれど、とても春とはいいがたい、気の滅入るような景色である。
私たちの粗末な服ではひどい寒さをしのげなかった。長靴はなく、短靴に入りこんだ雪はそのままそこで融けるのだった。手袋をはめぬ手はかじかんで、足と同じくシモヤケだらけになった。いまもよく覚えているが、そのせいでいらいらと悩まされ、毎晩両足は炎症を起こして、朝には赤く腫れてこわばったつま先を靴に入れるつらさに耐えたのである。 -『ジェイン・エア』第1部・第7章より
実に気の毒な話だけれど、ぼくがこどもの頃は、ヒビ・アカギレなどはごくあたりまえだった。ひでりの畑の地割れみたいにぱっくり開いたヒビからは血がにじんでくるほどであった。
こどもたちの手足からヒビ・アカギレが消えたのは、温暖化のせいなどではなく、栄養状態がおおいに改善されたからにちがいない。上に引用した箇所にすぐつづく文章がそれを裏書きしている。
食糧はみじめなほど乏しかった。育ち盛りのこどもたちの食欲は旺盛なのに、弱った病人が命をつなぐのにやっと足りるほどしか、わたしたちには当たらなかったのだ。
舞台が慈善学校というせいもあるけれど、大英帝国といえども、19世紀半ばにはそんなありさまだったのである。
それにひきかえ、栄養を摂りすぎて体重の増加に悩み、部屋に閉じこもっていてはいけないというので、カロリーを消費するためにわざわざ春採湖畔を歩くとは、いかにも滑稽な話ではないか。こんなぼくだって、昔はアカギレに悩むやせこけた少年だったというのに。
キバナノアマナの開花を確認した。ピントが甘いのは腕の未熟さのせいではなく、本日使用したカメラのせいである(笑)。マクロレンズ付きの一眼レフを持って行くべきだった。
まだ開ききってはいないが、アズマイチゲだろう。一時間ほど歩いたくらいでは腹はちっとも凹まないけれど、こういう発見をして少し気分が晴れるのはうれしいものだ。
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Comments
最初の一枚、春らしくはありませんがなんだか幻想的で厳しくて、私は好きです。
小さな野の花を探しながらのウォーキング、良いですねぇ。
昨年の株を引っこ抜いて新しく植えられた如何にも人工的な欧米の庭の花を見ながら歩くよりずっと素敵だと思います。
Posted by: りら | April 12, 2012 11:59
>りらさん
植物観察は楽しいですよ。特に野の花はすばらしいです。
ただし汚れますから、ふだんよりもさらにダサイ格好をして歩かなくてはいけませんが(笑)。
Posted by: 薄氷堂 | April 12, 2012 21:27