Daily Oregraph: 春採湖畔 4/20
この天気、この景色。まるでなにかに呪われているようである。
しかし午後からは日が射したから、明日には大きな変化が見られるかもしれない。頼むよ、ほんとに。
さてわがジェイン・エアは、金持ちの屋敷で住み込みの家庭教師(governess)を勤めているのだが、このガヴァネスなるものは、先生にしては気の毒なくらい身分が低く待遇も悪いのである。
いい主人や素直な生徒にめぐりあえるかどうかは運次第、どうかすると生意気なガキに「ふん、なんだい、ガヴァネスのくせに」などとののしられたり、はてはイタズラされたりいじめられたりすることさえあったという。
サラリーがまたみじめなくらい安く、ブレスィントン伯爵夫人(Countess of Blessington)が1839年に発表した、その名もずばり『ガヴァネス(The Governess)』という小説には、ロンドンで三人の子を教えるガヴァネスの年収が25ポンドとあり、当時のポンドの値打ちがいかほどかはよくわからないが、作品の中では「侍女の賃金」と嘲笑されているらしい(1996年ペンギン版『ジェイン・エア(Jane Eyre)』の巻末注による)。
幸い主人運のよかったジェイン・エアの場合でも、年収は30ポンド。しかもガヴァネスになる前に(やはり住み込みの)教師として勤めていた学校では、わずかその半分の15ポンドだったというから驚く。ベッドと食事は支給されるにしても、これではおしゃれに振り向ける金などあるはずがない。
良家の子女を教育するくらいだから、それなりの教養は身につけているはずの若い女性が、屈辱的ともいえる境遇に甘んじていたのは、ほかに適当な働き口がなかったからだろう。
もちろんガヴァネスにしても、その個人的能力にはピンからキリまであっただろうことは容易に推測できる。しかし相当の学問もあり能力もある女性が、気位が高く傲慢な連中から、身分ちがいというだけでさげすまれるのはいかにも苦痛であったにちがいなく、不満は次第に火山のマグマのように蓄積されていったはずである。
だから『ジェイン・エア』と『ジュード』とは案外近い関係にあるらしい。そんなことがいまごろわかったというのは、もちろんぼくの不勉強の証明にほかならない。あまりのはずかしさに、酒蔵があったら入りたい気分である。
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