Daily Oregraph: ネジをひねれば
多くの日本の港がそうであるように、釧路にもまた漁港としての顔と国際貿易港としての顔がある。
しかしたいへん残念なことに、現在テロ対策のため外航船バースにはフェンスがはりめぐされ、港湾管理者の発行する通行証なしには立ち入ることができない。正直いってテロ対策としてはほとんど役に立たないと思うけれど、密輸防止には一定の効果はあるかもしれない。
通行証を返納した以上、いまのぼくはただの怪しいおっさんにすぎないから、漁港をウロウロするしかないので、これからは副港(漁港区)のあたりを少し歩いてみようと思っている。今日は古い建物などを撮影したのだが、それらはもっと撮りためてからまとめることにして、しょうもない写真を数枚だけ掲載しておこう。
作業のじゃまをしてはいけないから、ちょっと離れたところから腰の引けた写真しか撮れないが、慣れれば要領がよくなるかもしれない。岸壁をウロチョロしていれば、一年にいっぺんくらいはどやされることがあるかもしれないけれど、そのくらいは覚悟する必要がある。
魚あるところにはカモメあり。おこぼれにあずかろうと岸壁をうろついているのだが、連中はひどく不器用だから、シシャモなどはともかく大型の魚には手を出せない。たまに混じっている雑魚が岸壁に捨てられるのを狙っているのだろう。
魚箱の中をのぞいてみるとマダラである。なるほどこれはカモメには処理しきれない。ごちそうを目の前にして、気の毒といえば気の毒だが、つくづくまぬけな鳥だと思う。ぼくには哲学的なカモメというのが想像もつかない。
賢い人間様はぼんやり魚箱をながめたりせずに、スーパーで一尾97円のスケソウダラを買い求め、鍋にして食うのである。
マダラよりもいっそう淡泊で上品な味は、若者向きではないかもしれない。しかし天下の美味を食べつくした(ウソ、ウソ)山の手のじいさんには最高のごちそうなのである。
さて話題はがらりと変わって……昨日ブログの更新をさぼったのは、ネットで動画をあれこれ見ていたからである。
実はいま読んでいるハーディが片づいたら、次は以前途中で放り出したままの『ネジの回転(The Turn of the Screw)』に取りかかろうと考えている。これはヘンリー・ジェイムズ(Henry James)の小説で、正統派も正統派、純文学ホラーの傑作として有名だから、ご存じの方も多いだろうと思う。
この作品は1961年に映画化され、NHKで放映されたことがある。ぼくはそれを中学生のときに観たのだが、実に不気味な映画で、当時はほんとうに怖かった。原作を知ったのはずっとあとの話である。
ところが、古い映画だからすでにパブリック・ドメインになっているはずだと思い、ネット検索したのだが、昨夜はどうしてもみつからなかった。YouTubeには2009年に放映されたBBCのTVドラマ作品があったけれど、どうも脚色が気に入らなかった。いろいろな解釈が可能な、原作の謎めいた性格によるのかもしれないけれど、小説をあまりいじくり回すのはどうかと思う。
今日もう一度調べなおしたら、映画のタイトルは『ネジの回転』ではなく、The Innocents (邦題は『回転』らしいけれど、ちょっと無理がある)であることがわかった。主演はデボラ・カー。さっそく全編をダウンロードしたところ、画質・音質ともに良好、実にありがたい世の中である。まだはじめのほうしか観ていないが、白黒画面は陰影に富んで美しいし、妙にひねりすぎていないところがいい。
なお『ネジの回転』という奇妙なタイトルについては、話の中に幼いこどもが登場すると、ネジをひねるように話にもひねりが加わる、つまり独特の効果が生まれるのだ、ということが一ページ目に書かれている。
ネジをひねるとわかるように、見えなかったものが見えてきたり、見えていたものが見えなくなったり、ちょっと意味深だから、みなさん解釈の泥沼にはまってしまうのだろう。善良なる市民としては、素直に怖さを楽しめばいいのかもしれない。
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Comments
こんばんは!
一尾97円のスケソウダラは旨そうで羨ましい!
いつだったか、生鱈を売っていたことがあって、
これは何としても買っていかないと、と思い、
購入して早速鍋にしました。
鱈は崩れやすいですねえ!
だけど、おいしい。いい白身の魚ですね。
フライにしてもよさそうです。
『ねじの回転』というヘンリー・ジェイムズの原作は、
まだ読んでいません。映画のほうもまだですので、
ちょっと楽しみです。
Posted by: 只野乙山 | March 09, 2012 00:00
>只野乙山さん
ふつう鍋にするのはマダラで、わが家でもよく食べますが、スケソウダラ鍋もたいへん上等です。マダラよりも淡泊なので、年寄り向きかもしれません(笑)。
鍋をつつきながら日本酒でもやってごらんなさい。乙山さんならうれしさのあまり卒倒してしまうかも。
一尾97円というのは産地ならではでしょうね。サンマよりずっと値打ちがあると思いますよ。
> 鱈は崩れやすいですねえ!
ええ、ですからわが家ではマダラの場合、ほとんど身を鍋にいれません。アラだけで十分というか、そのほうがうまいんです。身は別にフライにして食べます。これがまたいけるんですよ。
『ねじの回転』は新潮文庫と旺文社文庫から翻訳が出ていますが、どちらもちょっと入手しにくいかもしれません。翻訳の出来は旺文社文庫版のほうがすぐれていると思います。
Posted by: 薄氷堂 | March 09, 2012 10:36