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February 03, 2012

Daily Oregraph: 頭からお尻まで

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 今日の一日一枚は手抜きもいいところ。ある病院の談話室からガラス越しに取ったのだが、斜め方向にレンズを向けたため、写り込みを避けることができなかった。画面右端の像も流れている。

 ここからだと、以前ご紹介した客船バースの豪華トイレがよく見える(川の向こう岸、中央より右手)。このトイレは4月まで使用できないはずである。雪もそのまま残っているようだが、真冬には客船が来ないからなのだろう。

 もちろん冬の道東には、冬ならではの魅力がある。それでも配船しないのは、そもそも寒いところは人気がないということだろうか。それとも乗客がツルツルの道路を歩いて転倒し、骨折者続出という事態を恐れてのことなのだろうか。いずれにしてももったいない話である。

 さて今日も船に関係するためになる単語をひとつ。ためになるといっても、「ぼくは薄氷堂さんのブログを読んで東大に合格しました」という人は現れないだろうと思う(笑)。しかしためにならなくとも、ことばの世界は奥が深いのである。

 まずはリーダーズ英和に載っていた文例をふたつ(なぜわざわざ文例を掲載してあるのかは謎である)。

 1. clean the
heads

 2. Where's the
head?

 1. は、昔テープレコーダを愛用していたおじさんなら、「ははあ、消去ヘッドと録再ヘッドを掃除するんだな」とお考えになるかもしれない。複数形だしね。

 2. はちょっと難問である。これだけでは答えようがないから、文脈を見なくてはならない。

 TVに登場するインテリ芸能人に答えられるかどうかはわからないけれど、正解はそれぞれ、

 1.
便所掃除をする

 2.
トイレはどこ?

 どうしてヘッドがトイレなのだろうか? 話はここからおもしろくなる。いや、話を進める都合上、そう思っていただかないと困るのだ(笑)。

 まずリーダーズ英和の定義を見ると、

 [the ~, {英} では the ~s] {口} (船の) 便所, 《一般に》トイレ《もと海軍用語; 船首にあったことから》

とあるから、英米ともに使われることがわかる。なお head に「船首 (bow)」の意味があることはどの辞書にも載っている。

 念のため OED を確認すると、

 (船首にある)船の便所(latrine)。しばしば(英国ではふつうに)複数形。米国では陸上の W.C. をも指す。

 ランダムハウス本家版では、

 
特に船上のトイレット(toilet)またはラヴァトリ(lavatory)

となっており、ランダムハウス英和第2版は、

 【俗】(船の)トイレ、便所(≫船首にあるからというが bulkhead(隔壁)の短縮形ともされる);(一般に)トイレ

ともっとも詳しく、バルクヘッドの短縮形という説まで紹介されている。

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 バルクヘッドは船(だけではないが)のキャビンやカーゴ・ホールドのしきり(画像参照)のことをいう。トイレは空間が狭いから、間近にバルクヘッドが迫っているし、複数形の heads で使われることが多いということからも、短縮形説には説得力があると思う。ぼくはこの説に一票。

 なお toilet や lavatory、そして W.C. はおなじみだけれど、ラトリーン(latrine)は初めてという方もおいでだろう。

 OED によると、latrine は、

 
特に野営地、兵舎、病院などの privy (屋外便所;トイレ)

である。地面に穴を掘って回りを囲っただけのものも含まれ、高級なイメージはないようだ。客船バースのトイレに使うべき単語ではない。

 ひとつ単語を調べると芋づる式に別の単語に出くわすのは、面倒でもあれば、楽しみでもある。今度はプリヴィ(privy)というのが出現したので、ついでに調べてみよう。

 文字面からもわかるとおり、private の親戚で、OEDの定義によれば、


 
A private place of ease(楽にできるプライベートな場所), a latrine, a necessary (= necessary house)

 最初の定義はうまくいえないが、重荷を捨てて(?)すっきりと楽になれる場所、ほっとできる場所、というほどの意味だろうと思う。とうとう necessary まで登場したが、これはだれしも身に覚えがあるから、すぐに納得できると思う。ただし現在では方言とされているので、使わないほうがいいようだ。

 これで終わりだろうと思ったら大まちがい(笑)。念のためランダムハウス本家版で privy を見ると、outhouse なりと定義している。よろしい、乗りかかった船だから、outhouse も調べてみよう。

 外にある建物(離れ屋)だから「屋外便所」にはちがいない。

 まずランダムハウス本家版では、

 
ひとつ以上の便座とトイレ用としての穴の備わった離れ屋; privy

 OEDでは、

 
(主に米国)privy

と定義されている。なお outhouse は便所以外の離れをも指すことがあるので念のため。

 これであなたもトイレ語彙の専門家、志望大学合格の朗報を待ちたい。

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Comments

こんばんわ。
こんな時間に会社からアクセスしてます。本当に日本のホワイトカラーの効率って悪いですよ。自分でも真剣にそう思ってしまいます。愚痴はこれくらいとしします。。。
さて、今回のコラムは勉強になりました。トイレでこんなに単語があるんですね。イギリスの時は「loo」くらいは聞きましたが…
(地下鉄駅Waterlooも水洗トイレくらいな意味です)
言葉は奥が深いです。
では、もうひと頑張りします。
ホッとする時間ありがとうございます。

Posted by: 川中 | February 03, 2012 at 23:23

>川中さん

 深夜までのお勤め、ほんとうにお疲れさまです。ぼくはたいてい一杯機嫌になっている時間ですから、なんだか申し訳ないような気持になりますね。

 とんでもないマニアックな記事におつきあいくださいましてありがとうございます。

 今回は loo は登場しませんでした。ひとりの人間が一度に見渡せる範囲には限界がありますので、話題をご提供くださるとたいへん助かります。これまたおもしろい単語ですね。

 せっかくですから、今日の記事のネタとして使わせていただくことにしました。どうかご了承ください。

> ホッとする時間ありがとうございます。

 とんでもありません。まあ、トイレをすませるとホッとすることだけはたしかですが(笑)。

Posted by: 薄氷堂 | February 04, 2012 at 09:48

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