Daily Oregraph: 二月の終わりに
旧青少年科学館近くの斜面にて。
今日はポカポカ陽気で、道路の雪がずいぶん融けた。もう二月も終わりだし、確実に冬の勢力が衰えつつある証拠なのだが、道東の春は、数学でいうところの漸近線みたいなもので、いくら近づいてもけっして本物の春にはならない。
どうかすると五月の初めに雪が降ったりするから、春到来の宣言をためらっているうちに、いつの間にか短い夏がはじまるのである。歳時記の世界とはとんでもないズレがあるから、なにかと不便な思いをするのはぼくだけではあるまい。
ズレているのは季節感だけではない。雨音ひとつとってみても、トタン屋根にバラバラとやかましい音を立てて降る雨と、瓦屋根に降る雨の刷毛でなでたような柔らかい音とはまったく別物で、はじめてそのちがいを知った瞬間には世界観がぐらつくほどである。だから自分にワビサビの世界をほんとうに理解できるのか、パスポートなしに日本人を名乗れるぼくにもいまだに自信がない。
さて今回はおまけとして、りらさんが興味をお持ちの「純喫茶リリー」の写真をお目にかけたい(すでに掲載ずみのものが混じっているかもしれない)。外観はすでにご紹介ずみなので、地下への階段を下りるところから。
(以上2006年4月9日撮影)
ほとんど完全なる昭和趣味の世界だなあ。最近こういう落ち着いた喫茶店は絶滅危惧種だから、まさに貴重な存在である。
特にこれといった理由はないのだが、このところ喫茶店からは足が遠のいている。しかしたまにはポケットに突っこんだ文庫本でもめくりながら、コーヒー一杯で一時間ねばるのも悪くはないだろう。
気のきいた女性と同席できれば申し分ないが、もうそんな夢を見る時期はとっくに過ぎてしまった、ああ。
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Comments
いい感じですねえ・・・この喫茶店。
それに灰皿。
最近、大和では・・・ちょっと珍しい。
Posted by: 三友亭主人 | February 29, 2012 22:25
>三友亭さん
学生時代は金もないくせに、よく喫茶店のお世話になったものです。特に夏場は部屋にエアコンなどという気のきいたものはありませんでしたから、喫茶店で本を読むのが楽しみでした。
最近昔ながらの喫茶店はずいぶん減ってきましたよね。去年東京に出張したときは、東京駅付近にあった喫茶店がみあたらず、ガッカリしたものです。アメリカ風のなんとかコーヒーのチェーン店じゃ、どうも気分が乗りませんしねえ。
Posted by: 薄氷堂 | February 29, 2012 23:05
アメリカ的合理主義ではわからないのかもしれませんが
結局、コーヒーという飲料に金を払っているのではなく
コーヒーを飲む空間と時間に金を払っていたんですよね。
僕らは。
スタバでも、ドトールでも、そこで飲むなら職場のコーヒー飲むからいいやと思ってしまう。
Posted by: 根岸冬生 | March 02, 2012 07:57
>根岸冬生さん
かつては「本物のコーヒー」は喫茶店で飲むものだという時期もありましたが、いまやいつでも家庭で(職場でも)うまいコーヒーを飲めますしね。
そういえば、書店で買ったばかりの本を喫茶店で開くのが楽しみでしたけど、アメリカ式のコーヒー・チェーンではちょっとその気にはなれません。
Posted by: 薄氷堂 | March 02, 2012 22:51
わーー!リクエストにお答えいただいておりましたのに、すっかり出遅れて、済みません。
地下のお店でしたかぁ!
やはり、名は体を現すですねぇ。
良いですねぇ・・・落ち着いてゆっくり話ができそう。
お客さんもみなわきまえのある方々で、低い静かな声ではなしそう・・・そんな感じが伝わってきます。
昔喫茶派としてはまず名前で反応!です。
日本の喫茶文化を駆逐してしまった感のある米国チェーンコーヒー屋ですが、あれはもう「喫茶」ではありません。
コーヒーをかっ込むだけ・・・しかも不味いし・・・
あの味でよく日本で受け入れられたよなぁ、と思うほどこの地の女神マークは不味いです。
こちらは逆行現象がおきてまして、女神マークを出発点に良い喫茶店ができました。
Posted by: りら | March 04, 2012 04:20
>りらさん
このお店はたいてい会話のじゃまにならぬ音量でクラシック音楽が流れています。はてな、釧路って文化都市だったのかな、と錯覚を起こすほど(笑)。
> こちらは逆行現象がおきてまして、女神マークを出発点に良い喫茶店ができました。
それはたいへん結構なことですね。なにごとも用さえ足りればいいというものではありませんから。
Posted by: 薄氷堂 | March 04, 2012 21:30