Daily Oregraph: 待てば海路の
日中暖かかったのでちょっと散歩に出たら、やはり道路の状態はよくない。氷の残る歩道は表面だけ融け、かえって滑りやすいし、まだ車道を歩かねばならないところが多すぎるのだ。
写真の水たまりなどは、朝晩ふたたび凍るからやっかいである。トロチコさんに取材をお約束した場所など、いくつか歩きたい場所はあるのだが、もう少し時期を待とうと思っている。
さて先日取り上げたハリウッド・シャワーに関し、その後やはり『レッド・オクトーバー』に詳細についてふれた文章があったので、ご紹介したい。
(長時間のむずかしい仕事をこなした)おかげで、彼はハリウッド・シャワーにありついた。ふつう清水の乏しい船内でのシャワーとは、数秒で体を濡らし、一分ほど石鹸で洗ってから、ふたたび数秒で泡をすすぎ落とすことをいう。体はきれいになるが、たいして満足はできない。
-中略-
航海に出た船乗りなら、二三日もすればハリウッド・シャワーを恋しく思いはじめるものだ。気持のよいお湯がほとばしるのを、そのまま出しっぱなしにしてゆっくり使うところを。
これにつづいて、艦長がほうびとしてこのシャワーを特別に許可したことが書かれている。もちろんそれには潜水艦ならではの事情がある。一般の商船の場合、よほど水が不足したとき以外は制限はないと思う。
このハリウッド・シャワーが最初に登場したのは130頁、二度目は259頁である。こういうことはしばしばあるから、もし手持ちの辞書に単語が載っていなくとも、あきらめずに読み進めることが必要だと思う。
昔グレアム・グリーンの小説を読んだら、どの辞書にも登場しない単語に出くわし、来る日も来る日も考えつづけたけれどわからない。たぶん食品名だろうとは予想したのだが、ずいぶんあとになってもう一度同じ単語が出現し、やはりお菓子の商品名であることがわかった。外国人に不二家のペコちゃんがわからないのと同じである。
もちろんいつもそううまくいくとは限らないけれど、何年もたってから答がみつかることだってある。そういうときはうれしさのあまり、つい一杯余計にウィスキーを飲みたくなるものだ。
現在ではインターネットで検索すれば、その手の疑問は一発で解決する。しかしそうはいっても、身近に先生もおらず、辞書だけを頼りにして本を読むのはむずかしいものだ。
江戸時代の学者などは、利用できる辞書にも限りがあったから、とんでもない苦労をしたはずで、並はずれた根気のよさにはまったく頭が下がる。ハリウッド・シャワーではなく、レジオンドヌール勲章を進呈したいものである。
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Comments
翻訳というのは本当に難しいですよねぇ。
今回のブログに書きましたが「モルツ」・・・
日本だったら某大会社のビールですものねぇ。
私は英語ができないまま暮らしていますが、それでも米人と一緒に生活していると、固有名詞などはよく判るようになります。
この場に私信で恐れ入りますが、こちらへのコメントのお返事のメールは着いていますでしょうか?
ここで出されているアドレスがコピー&ペーストできないので、ちょっと不安になったりしています。
Posted by: りら | February 15, 2012 06:09
昔、蘭学を勉強した福沢諭吉が
ヨコハマに行ったらオランダ語が通じなくて愕然としたそうです。
そのあたりから日本は一気に蘭学から英学に舵をきるワケですが。
う~~む。
僕は外国語はだめだな。
Posted by: ネギ | February 15, 2012 12:39
>りらさん
翻訳は労多くして、間違いをゼロにするのはむずかしく、そこを誤訳追求マニアにつつかれたりして、とても割に合わない仕事だと思います。
最近は質のいい翻訳が増えましたけど、昔の翻訳物はひどいのが多かったですね。原作と突き合わせて読むと、前後が矛盾していたり、まるで意味が反対のことを書いてあったりします。
それでもなんとなくストーリーがわかるのだから天下太平、まあ、しょせん小説なんてそんなものかもしれません。
ところでモルツですが、麦芽飲料ですよね。日本でもネッスルが「ミロ」という名で、粉末のを発売していたはずです。最近みかけませんので、人気が出なかったのかも。
>ネギさん
オランダには気の毒ですが、通用する範囲が狭すぎますからねえ。
『蘭学事始』は涙なくして読めない本ですが、それほどの苦労を重ねて習得した蘭語を、すばやく英語に切り換えた日本人はすごいと思います。
ぼくなんかはヒマつぶしに活字を追っているだけですから、ほとんど実際の役には立ちません。ヨコハマに行っても、ろくに通じないんじゃないかと(笑)。
Posted by: 薄氷堂 | February 15, 2012 13:47