Daily Oregraph: 熱いシャワーを
このところ毎日運動のつもりで少しずつ氷割りをしている。
日中日が射して気温が上がると、氷は端のほうから緩んでくる。そこを狙ってツルハシをふるうと、おもしろいように割れるのだが、氷原(?)の内側はびくともしない。太陽の力は偉大だけれど、氷もまた頑固である。
ナポレオンもヒトラーも冬には勝てなかった。21世紀のおじさんは歴史に学んでいるから、けっして無理はしない。すぐに撤退するのである。
『孫子』に曰く、
夫れ兵久しくして国の利する者は、未だこれ有らざるなり。
オバマさんも『孫子』は読んでいるのかな?
さて『レッド・オクトーバー』だが、氷割り作業と同じで、さっぱりはかどらない。その理由のひとつは、流行のことばでいえば、これがアメリカのいわば「どや顔」小説だからである。おもしろいのが半分、つまらないのが半分というわけで、結局海事用語の収集が目的になってしまうわけだ。
おもしろいのは通信文の部分で、昔やりとりしていたテレックスの文章と基本的に構造がいっしょだから、すらすらと頭に入るのはふしぎである。全編文法的にはいささか破格のテレックス文だと、ぼくみたいに不勉強な男にとっては、よっぽど読みやすいのではないだろうか(笑)。
ほかにネタがないので、ためになることば(ならないか?)をご紹介してお茶を濁すことにしたい。今日は「ハリウッド・シャワー(Hollywood shower)」である。潜水艦の艦長が部下にいうセリフの原文を下に示す。
Have yourself a shower. Make that a Hollywood shower--you've earned it--and rack out.
アメリカ俗語辞典3種にあたったが、残念ながら掲載されていなかった。OEDにも見あたらない。しかしランダムハウス英和第2版(小学館)には、
【米海事俗】(海上での)本格的な雨
と説明されている(本家の英語版には載っていない)。ぼくが思うに、映画で土砂降りの場面に降らせるわざとらしい雨のように激しい雨のことをいうのだろう。
しかし上の文章はこれでは意味が通じない。こういう時に頼りになるのが、研究社のリーダーズ英和である。
【海俗】 《ふんだんに浴びることのできる》お湯のシャワー
これで疑問氷解。Rack out は俗語で「寝る」という意味だから、艦長が「よくやってくれた。熱いシャワーをたっぷり浴びて寝たまえ」と、部下をねぎらっているわけだ。
貨物船の場合、ランクによって部屋にバスタブがあったり、シャワーだけあったり(写真上)、共同シャワーだったりするが、戦艦もたぶん同じだろうと想像する。
しかし潜水艦だと条件はかなり悪くなるはずである。それこそ湯水のようにシャワーを浴びるのはゼイタクのきわみで、ひょっとしたら制限があるから、わざわざ「ハリウッド・シャワーにしろ」といったのかもしれない。
いずれにせよ、海上では水は貴重である。だからこそふんだんにお湯の出るシャワーはハリウッド映画の雨やシャワー・シーンなみにゼイタクだ、という意味で生まれた俗語なのだろう。
まあ、こんな読み方をしているかぎり、『ターヘル・アナトミア』の解読よりは少しだけマシというペースだから、なかなか先へ進まないのも道理である。
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