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January 28, 2012

Daily Oregraph: 悲しい酒

120121_shochu
 うまい酒はうまく飲みたいものだ。もう古新聞をあさって暗いニュースを読むのはやめようと、床に散らばっている新聞の束を片づけていたら、ゴミの散乱するトンネルか地下道の中でうずくまっているひとりの男の写真が目にとまった。

 腕のいい人の写真には力があるものだ。多くの人がめざす、いわゆるきれいきれいな写真でもなければ、まあお上手ですね、というような写真とはまるでちがうのだが、ぐっと引き寄せられて、よせばいいのについ記事(2011年8月10日)を読んでしまった。

 先日アメリカの不法移民の記事をご紹介したが、今回は強制送還された人々の運命についてである。

 メキシコのティワナ(ティファナ Tijuana)はアメリカとの国境の町で、カリフォルニア州サンディエゴはすぐ目の前である。ここにはアメリカから強制送還された移民たちの多くが、行き場を失って絶望的な生活を送っている。

 母国へ送還されたのなら、故郷へ帰って暮らせばいいと思うのが普通だけれど、話はそう簡単ではない。彼らは身分を証明する書類(日本でいえば健康保険証や運転免許証に相当するもの)を所持していないため、逮捕・投獄を恐れ、警察の目を逃れてこそこそと暮らしているのである。

 どうして身分証明書がないかというと、彼らの多くはまだこどもの頃か若い時に越境したからである。もちろん出生証明書の謄本を取るという手はあるが、手続きが複雑で費用もかかる。

 それなら働いて費用を稼げばいいわけだが、身分を証明できず警察から逃げ回る不法国民だからまともな職につけるわけがない。たとえばこづかい稼ぎ程度のはんぱ仕事をしたとしても、一日の稼ぎでは有料トイレ(59米セント)にも入れないことがあるという。

 それにたとえ故郷へ帰ったとしても、待っているのは貧困と麻薬がらみの暴力だ。だからこそ彼らは希望を求めて越境したのではなかったのか。

 市内には無料で朝食をふるまう奉仕団体があって、一日に提供する900食のうち80%はアメリカから送還された人々が利用するのだという。彼らは排水溝のトンネル内か橋の下、あるいは国境沿いにこしらえたボロボロの小屋で夜を過ごす。

 アメリカとメキシコとの間には、不法移民送還にあたっては人道的な取扱いをするという協定があるけれど、実際にはろくに守られておらず、無慈悲に放り出すことも多いという。ふだん人権がどうのとお説教を垂れているアメリカとしては、一応体裁だけはとりつくろっているということだろう。

 メキシコには、送還された者の帰郷旅費をそっくり負担し、就職の斡旋をするという立派な制度があるけれど、その恩恵に浴するためには出生証明書か身分証明書が必要である。だからこれまた実態を無視したお役所仕事の典型のように思われる。

 つまり身分を証明する書類を持たぬ人々はまったく身動きの取れぬ状態にあるわけだ。不法移民として送還されると、母国では不法国民扱いされるのだから、もはや万事休すである。だから危険を冒してふたたび越境しようとする人々が現れるのは、ごく自然のなりゆきであろう。

 ……こんな絶望的な記事を、だれが喜んで読むだろうか。YouTubeで東海林太郎先生の歌でも聴くか、DVDに録画した「融」でも鑑賞して、浮世離れした気分を味わいながら、うまい焼酎を一杯やったほうがいいに決まっている。

 さはさりながら、やはり読みはじめるととまらない。読めば悲憤慷慨の情も湧いてくれば、自分にはどうすることもできないという無力感にもさいなまれる。やっぱりもうこの手の記事を読むのはやめよう、気楽な小説でも選んで時間つぶしをしよう……そう思うのだが、さてうまくいくかどうかはわからない。

 とりあえず今夜はいただきものの米焼酎を飲みながら、今後の身のふり方(?)を考えることにしよう。

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Comments

薄氷堂さんの読んでいらっしゃる古い新聞じゃあなくても、我々を悲憤慷慨の情に駆り立てる記事は探さなくとも目に入ってきます。

どうにもできない無力感にさいなまれながらついついそんな記事からは目を背けたくはなるのですが・・・どうしても入ってくるんですよね。おまけにテレビをつければ見たくもないし政治家やどこぞの首長、自らの狭窄な考えの身が正論であると主張してやまぬ評論家たちの顔が・・・・

仕方がないから愚にもつかぬくだらない番組を見つつ、アルコールを以てけがれた体をお清めし・・・

そうしてこうやって薄氷堂さんのブログを拝見いたしております。

Posted by: 三友亭主人 | January 28, 2012 at 22:09

>三友亭さん

 会社で不要になった新聞から、気になった頁だけ頂戴してため込んでいた古新聞ですが、おかげさまでだいたい片づきました(もし毎日チェックしていたとすれば、膨大な量になっていたことでしょう……仮定法過去完了ね(笑))。

 しかしいまやインターネットでいくらでも最新の記事を読めますから、入手困難というのは理由になりませんね。やはり気が向いたらこれからもチャレンジすることになるでしょう(チャレンジというのは、読むのがしんどいだからです)。

 おっしゃるとおり、電気のない山の中に住んでいるのならともかく、暗いニュースから目をそむけて生きていくことはできませんよね。

 しかし人間できうれば楽しく生きたいものです。メキシコ人不法移民だって、余裕さえあれば、みんなでバカ話をしながら、愉快に酒を飲むにちがいありません。

 機会があれば、ご一緒に楽しい酒を飲もうではありませんか。微力ながら世界平和を祈りつつ。

Posted by: 薄氷堂 | January 28, 2012 at 23:32

白岳、僕好きです。
米焼酎は泡盛と兄弟みたいなもんですから。
悲劇は、例の一時期、いかれた米の横流しで
白岳のブランドに傷がついたこと。
もっとも好きな人間からすれば
そんなことは何の関係もなく。
胡麻といえば紅乙女
米といえば白岳


あれ?移民の話だっけ。

Posted by: 根岸冬生 | January 29, 2012 at 13:51

>根岸冬生さん

 沖縄では寒緋桜見物ですか。いくら日本列島が南北に長いとはいえ、にわかには信じられませんねえ。

 山羊刺しと泡盛にはちょいと惹かれますが、暑いところは苦手なので、沖縄への移民は見合わせておくことにします。

Posted by: 薄氷堂 | January 29, 2012 at 17:09

そうでした・・・
サンディエゴからアリゾナに入るインターステイツハイウェイには不法移民取締りの為か?密輸の為か?国境警備隊の関門が設けられていましたっけ。
恥ずかしながら、こういう現実をすっかり見過ごしにして暮らすようになってました。

話は逸れますが・・・・
私はよくメキシコ人に間違えられます。
ノーメイクで髪の短いメキシコ系の女性なんてほとんどいないのに~!

Posted by: りら | January 30, 2012 at 13:00

>りらさん

 アメリカというのは、日本人の想像を絶する国みたいですね。ピンもすごいかわりに、キリもまたすさまじいわけで、お手本にしていいやら悪いやら。

> 私はよくメキシコ人に間違えられます。

 えっ、ちょっと信じられないお話ですね。りらさんがメキシコ人なら、ぼくはいったい?

Posted by: 薄氷堂 | January 30, 2012 at 22:24

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