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January 04, 2011

Daily Oregraph: 2011-01-04 冬の夜の怪談

110104stollen
 今日はシュトーレンを一切れいただきながら、冬の夜に怪談を楽しもうという趣向。

 わが国では怪談は夏と相場が決まっているけれど、英国では冬。実はぼくも冬派である。冬の怪談は怖い。なにしろ黙っていても寒いのだから、慄然として全身が凍りつくのはまちがいない(笑)。

 まず思い浮かぶのは、エミリ・ブロンテの『嵐が丘』に登場する幽霊である。

 吹雪の夜、窓の外から少女の小さな手が現れ、すすり泣くような声で「入れて、入れてちょうだい!」と哀願する。そして窓越しにキャサリン・リントンの顔がぼんやりと……これは怖い。傑作だと思う。この場面は真冬に読むにかぎる。

 さて日本の幽霊だが、今夜は『皿屋敷』のお菊さん。桂春団治師匠演ずるところの落語『皿屋敷』によれば、あらすじは次のとおり。

 播州姫路の青山某という侍が美貌の腰元お菊にいくら言い寄ってもいうことを聞かぬ。そこでかわいさあまって憎さ百倍。家宝の皿を十枚お菊に預けたうえで、こっそり一枚抜いて隠してしまう。

 青山に皿が入り用だから出せといわれたお菊が何度数えても、皿は一枚足りない。おのれ皿をどこへ隠した、といいがかりをつけ、お菊を井戸に吊して上げたり下げたり、半死半生になったところを打ち据えて、白状せよと青山は迫る。

 しかし白状のしようがないから、お菊は身に覚えはないというばかり。とうとうお菊は一刀のもとに切り捨てられるのだが、その晩から彼女の亡霊が出現し、青山某はやがて狂死してしまう。

 あとはご存じのとおり。お菊の幽霊が夜な夜な井戸から現れて、一枚、二枚と皿を数えるわけである。

 -お前らみな、あのお菊虫という虫を知ってるか?

 -へえ、たしかあの、前でこう髪の毛がパラッとなって、手がこう後ろへくくられたようになってる……

 -そうや、あれはお菊の亡霊や。


 え、お菊虫? みなさまはご存じだろうか。たぶんご存じないと思うので、今夜は特別大公開(笑)。

 これぞ疑問を持ちつづけていればいつかは解決するという好例である。もっとも解決したって一文にもならぬ知識だが、金もうけはドラえもんとホリエモンに任せておこう。

Okikumushi

 上図は暁晴翁(木村蒹葭堂)の『雲錦随筆』に掲載されたもので、翁曰く、


 播州巡覧図絵にいわく、皿屋敷の世話は兒女子(じぢよし)の口にのみ残りて書き伝へたる物なし(中略)寛政七年卯年お菊虫といひてもてはやせり。世俗にお菊の年忌に出(いづ)ると言へり。これ妄談の甚だしきなり。漢名を蛹(よう=サナギ)といひて毛虫などの蝶にならんとする前に先(まづ)かくの形に変れり云々

 また、


 まさしく女の後手(うしろで)に搦(からめ)られ、木に括(くく)りつけられたる形象(かたち)なり。

とあり、なるほど図を見ると納得できる。

 ついでながら翁によれば、『播州皿屋敷』(元文六年豊竹座にて上演されたという記録あり)については、もともと江戸番町で起こった事件をもとに、番町を播州に置き換えたのだという説があるけれど、その説が正しいどうかは不明であるという。

 そういえば昔『番町皿屋敷』という映画を観た記憶が残っている。道理ではじめて『播州皿屋敷』を知ったときに混乱したわけだ。

 注:引用文は一部読みやすいように改めてある。

(Nikon D70 + Ai Micro 55mm F2.8S)

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Comments

中学生のとき読みました。その後、東京音楽祭で、ケイト・ブッシュが「嵐が丘」(オリジナル曲)を歌って何か賞をとりましたけれど、あの話の筋にピッタリな曲だなぁと感動して聞いたことをよく覚えています。それに、あの声・・・! 脅威の7オクターブ半! 最近は日本の歌手でも平原綾香とかいう方がそういう音域を歌うのだそうで、めずらしくはないのかもしれませんが。
話はズレましたが、あのころ読んだ本の中には、どういうわけか「椿姫」もあって、幽霊は出てきませんが、かつては恋人だった女性の墓を掘り起こす場面があって、腐臭が漂う恐ろしい場面だなぁと・・・震えました。幽霊よりも、肉体が土に返る過程を知るほうが怖いと思った若い私だったのでした。
 その感覚は現在も私の中にあって、今日だって、見知らぬ男がマーケットで丸腰の子供に刃物で切りつけたという事件を耳にして戦慄しました。誰でも良いから殺したいと刃物を持って徘徊するような狂った人物が、そのへんにいるかもしれないというほうが、幽霊なんかよりもずっと怖い気がします。あぁ、くわばら、くわばら。

Posted by: ありす | January 04, 2011 at 23:47

お菊虫とはなんとまあ風流なお言葉をご存じで・・・
さすが薄氷堂さん。
それにまたなんとも風雅な絵図。

正月早々、優雅な気分にひたれました。

Posted by: 三友亭主人 | January 05, 2011 at 05:59

>ありすさん

 狂気はだれにでもひそんでいますから、突然爆発すると怖いですよね。ぼくなんかもかなりあやしい口です(笑)。

>三友亭さん

 落語から仕入れたんですから、おほめいただくほどのことはありません。

 昔の本の挿絵は味があっていいですよね。写真よりもずっとおもしろい……なにしろ「真写」ですから。

Posted by: 薄氷堂 | January 05, 2011 at 20:16

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