Daily Oregraph: 2008-08-05 深川あたり (3)
暑い。いふまいと思へど、暑い。
いっそカンカン照りならましなのだが、いまにも雨の降り出しそうな空の下、たっぷり湿気を含んだ熱気が体にねっとりまつわりついてくる。無数のエアコンの排熱が目に見えぬ渦を巻いて立ちのぼり、いずれ台風が発生するんじゃないかと疑われるほどである。
驚いたことに、通りを行く人々は案外平気な顔をしている。よくまあ不平もいわずこんなところで暮らしているものだと、呆れるやら感心するやら。
涼しい北国に暮らすマジメな市民の多くは、お国のお役に立とうとして、けなげにもレジ袋の削減に取り組んでいるけれど、まあ、この巨大な都市の暑さの中を歩いてごらんなさい。そんなことをしたって、どうにもなるものじゃないことが実感としておわかりになるだろう。
レジ袋一枚節約して立派なことをしたつもりでも、家に帰ってエアコンをガンガンかけ、せっせと熱気を排出するようではなんにもならないにきまっているし、この腹立たしい暑さの中、エアコンを我慢して長時間耐えられる人がどれだけいるだろうか?
グチをこぼしてもしかたがない(笑)。せっかくだから、富岡八幡宮を見物することにしよう。
見物といったって、この暑さである。背広を着て歩き回る愚か者としては、ただ通過するだけの話なのであった。
こちらの境内には伊能忠敬像があり、意志の人である先生はキリリと口を結び、スタスタと歩いていらっしゃる。汗ひとつおかきになっていないのだから、偉人はちがうものだと感心した。
八幡宮よりも伊能先生像に感銘を受けたぼくは、つづいてすぐおとなりの深川不動堂へ向かった。
写真でもおわかりのように、なにやら空模様あやしく、しきりに雷鳴が轟いている。
一雨くるか、と思ったけれど、降り出さなかったのは幸いだった。
富岡八幡宮と深川不動を見物し、一応は目的を果たしたので、近くのソバ屋さんで昼食を取ることにした。
中に入ったとたんにシベリアのような涼しさ。コップの水をぐいとやりながら、国防婦人会のみなさまには申し訳ないが、エアコンとは実にありがたいものだ、ぼくだったら一日中使いっぱなしだろうなと思った。
ソバをすすりながら壁の貼り紙を見て、そういえば富岡八幡宮のお祭りは江戸三大祭りのひとつだったなと気がついた。頭がボーッとしていたせいか、通りのあちこちに御神輿渡御のノボリが立てられていたことにそれまで気づかなかったのである。
となりのテーブルでは、商店街のご主人たちだろうか、五六人のグループが昼間っから焼酎をぐいぐい飲みつつ、世間話に興じている。暑気払いに一杯……ちょいと落語の世界を思わせる情景で、もう祭りがはじまったような景気のよさである。
ソバを食い終えて、ふたたび熱気の中へ。商店街の店先をのぞきながら、汗だくになって歩きつづける。
これは雑貨屋さん。
「祭用品」が商売になるのは土地柄だろうか。
ナベやヤカンといっしょに、さらし、白たび、半股引が売られているところにおもしろみを感じた。
さして情緒のある橋ではないが、やはり深川といえば永代橋だろう。釧路の幣舞橋を渡り、京都の三條大橋を渡って、江戸の永代橋を渡らないのでは、日本人と生まれた甲斐がない(笑)。
橋の上から隅田川の下流を望み、無国籍の風景をながめたぼくは、人生の目的のひとつを達成した喜びにひたったのである。
このあとついに雨に降られ、東京駅まで歩く計画は頓挫したのだが、番外編として次回はこのたび都内で撮影したいくつかの駅をお目にかけたいと思う。
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