霧里小学校校舎を撮影する目的を果たしてふたたび二俣へ戻り、さらに北上した。地図にある「憩いの森」なる場所を見物するためである。
憩いの森というからには、森林浴を楽しめる遊歩道か森林公園があるにちがいないと思ったのだが、正直いってここはハズレだった。遊歩道もなければ森林公園でもなく、どうみてもキャンプ場である。
ひととおり整備されているし、明るくて気持のいい場所ではあったが、キャンプをするならともかく、そうでなければわざわざ車を走らせて訪れる値打ちがあるとは思われなかった。
なあんだ、とガッカリしたものの、気を取りなおして場内を歩いてみると立派なハルニレの木があった(写真右)。推定樹齢 320年、幹回り 435cm、樹高22mという堂々たる大木で、この土地自慢のものらしい。
たしかにハルニレは立派だが、これだけで憩いの森と称するのはいささか無理があるのではないか。そんなはずはないぞと思って、あたりをキョロキョロ見回してみたが、森らしきものは一向に見あたらない。
落胆して車に戻ろうとしたときみつけたのが写真左の茶安別(チャンベツ)神社である。社は最近建て直されたものらしかったが、木製の鳥居に味があり、ハルニレで稼いだ得点と合わせて、なんとか 60点をつけてやれよという神の声が聞こえてきた(笑)。
神様には逆らえないから納得することにして、さてこれからどうしようか……地図を見ると舗装道路はもう少し北につづいている。行けるところまで行ってみよう。
というわけで行ってみた先はこうなっていた。
里音別林道入口。ここへ来る途中何台かの大型トラックに出会ったのは、この先で工事(トンネル工事?)が行われているからなのであった。地図によれば、この林道の先は国道 392号線の上茶路あたりに通じているらしい。
狭い林道内で大型トラックとすれちがうのはごめんこうむりたいし、上茶路まで出てしまえば、もうひとつの目的である三滝の沼をあきらめることになるので、ふたたび二俣方面へ向かって出発した。
今度こそ沼への道を見逃さぬよう、地図上でおおざっぱに距離を計算してみると、二俣から南、つまり音別方向に約4キロ走った地点にその道はあるはずだった。(ここでお断りしておくと、ぼくの車にはカーナビなんてしゃれたものはない)
持つべきものは地図である。ほとんどドンピシャリ、沼へ向かうと思われる未舗装路がみつかった。やはり道路標識などなかったのである。
道路の状態はまずまず、普通の乗用車でも十分前進できそうだった。
祝日だから沼を見物する車が列をなしているかと思いの外、途中すれちがった車は一台のみで、ちょっと拍子抜けした。音別八景はあまり人気がないのだろうか。
この道でも「ヒグマ出没注意」の看板をみかけたが、驚くべし、道の南側ではところどころ農機が入って畑作業をしているのであった。秘境などということばを軽々しく使ってはいけないと痛感した。
なかなか沼が見えてこないので、ひょっとして道をまちがえたかと不安を感じはじめたとき、三滝の沼は忽然と姿を現した。
圧倒されるほど美しいとは感じなかったけれど、山の中にひっそりと隠れているこの小さな沼を目にすれば、だれしもあっと驚くにちがいない。ぼくもヒグマの心配さえなければ、うまく全景をおさめることのできるポイントをゆっくり探したのだが……
全体に景色が黄色っぽく見えるのは、水が濁っているせいだろうか。めったに人などこないはずの沼がどことなく人工的な印象を与えるのはふしぎだったけれど、取水口なのか排水口なのか、大口径のパイプが岸辺に埋設されているのをみつけたから、あるいは一部人の手が加わっているのかもしれない。
沼への道を示す道路標識がないのは解せなかったけれど、狭い林道沿いにあること、駐車スペースがほとんどないこと、ヒグマ出没のおそれがあることなどを考えると、あえてそうしているのかもしれない。
謎の沼を見物できたのはいいが、さてどうやって帰ったものか……ふたたび地図と相談してみると、この林道は尺別に至る道に通じている。道路のコンディションもさほど悪くはなさそうだし、そのまま突っ走ることに決めた。
しかし林道というのはそう甘いものではなく、それから先がちょっと大変だった。しばらく進むと道が分岐していた。それも三方向へである。地図にはないからちょっと弱った。
右すなわち北へ向かう林道は入口にゲートがあり、ゲートは開いていたけれど、明らかに方角ちがいだからパス。
問題はまっすぐ進むか、左(南)に折れるかだが、どちらも可能性がありそうに思えたので、とりあえず左折してしばらく前進すると、だんだん草深くなってきたのでそのまま車をバックさせて分岐点に戻ったのは正解だった。(こういう林道を走るには、もっと詳細な地図が必要と悟った。カーナビもどこまであてになるのだろうか)
結局分岐点からまっすぐ前進する道が正しかったのだ。しかしそこからは林道が本性をむき出しにして、路面は急に荒くなり、ゴツゴツした大きい石が無数に転がっていた。小石がガンガン音を立てて車体に当たるのはいいとして、路面にあるほとんど岩に近いとがった石は怖い。
以前ぼくは広尾川沿いの林道でタイヤをバーストさせた経験があるから、しばらくの間は冷汗をかきながら慎重にハンドルを握った。いくら4WDとはいえ、普通乗用車で林道を走るのはやはり無茶なのかもしれない。沼を過ぎてからは、とても写真を撮る余裕などなかった。
やがて路面も落ち着いて人家がちらほらと見え、無事尺別への道に出たときはさすがにホッとしたが、喉元過ぎればなんとやら、快適な舗装道路のありがたさにすぐ慣れてしまうのには、われながら苦笑せざるをえなかった。
せっかくだから、何年ぶりかで尺別のJR無人駅に立ち寄ってみた。
ここの集落のさびれようは筆舌に尽くしがたく、数年前に訪れたときよりもさらに住人が減っているのではないかという印象を受けた。
ついでに尺別海岸を歩く。
足跡ひとつない砂浜を撮ることはできなかったが、人っ子ひとり見えないのは写真のウソ。これと反対の方向には、たくさんの釣り人が竿を並べているのであった。
山奥に眠る小さな沼から太平洋の海岸へ、まったくウソのような景色の変化である。
だがこれこそ道東の魅力ともいえる。次はどこへ行こうか。
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